
相続した実家が老朽化している場合、解体しなければならないケースもあるでしょう。
しかし解体には費用がかかるので、支払いを巡って相続人間でトラブルが起こることがあります。
この記事では、実家の解体費用を払うべき人、解体費用を安くするコツ、不動産相続での解体トラブル、解体費用で悩んだ場合の解決法などについて解説します。
実家の解体費用は誰が払う?

実家の解体費用は誰が支払うべきなのでしょうか。
ここでは解体費用を支払う人を、不動産の相続方法ごとに紹介するので、相続財産に老朽化した家がある場合は事前に確認しておきましょう。
原則は実家を相続した人が払う
実家の解体費用は原則として相続した人が支払います。つまり、実家を引き継ぎ、新たな所有者になった人が費用を負担することになります。
遺言書がある場合は原則としてその内容に従い、不動産を相続した人が解体費用を支払わなければなりません。
遺言書がない場合は相続人間で遺産分割協議を行い、話し合いの結果、不動産を引き継ぐと決まった人が解体費用を負担します。
遺産分割協議をせず、法定相続分のまま相続することもあります。
ただし、実家の土地と建物は相続財産の大部分を占めているケースが多く法定相続分では分割できないため、通常は遺産分割協議で財産の分け方を決めるのが一般的です。
共有名義の場合は相続人での協議が必要
実家を兄弟間の「共有」で相続した場合は、持ち分の割合で負担費用が決まります。持ち分の割合は遺言書が存在しない場合、法定相続の割合で決めるケースが一般的です。
たとえば兄弟2人で50%ずつの持ち分としている場合、解体費用は半分ずつ支払うことになります。
ただし不動産は現金のようにきれいに半分にはできないため、遺産分割協議により割合を話し合いで決めることもあります。
相続登記の義務化にも注意
不動産登記法の改正により、2024年4月1日から相続登記が義務化されたため注意が必要です。
これまでは相続登記を行わなくても特に罰則が設けられておらず、手続きを後回しにした人が多くいました。
しかしその結果、所有者不明土地や空き家問題が深刻化しています。その解決策として相続登記が義務化され、取得後3年以内に登記を行わなければ10万円以下の過料の対象となりました。
法改正前に取得した不動産も対象となっているので、2024年3月以前に取得した不動産は2027年4月1日までに登記手続きを終えなければなりません。
実家の解体費用を安くする方法は?

実家の解体費用をなるべく安く済ませたいと考える方も多いでしょう。解体工事は少しポイントを押さえるだけでも安くできます。
以下で挙げる方法を取り入れて少しでも工事費用を抑えましょう。
解体費用の相場
一般的な木造一軒家の解体費用は1坪あたり約31,000~45,000円が相場です。30坪の家の解体は90~135万円が目安となります。
鉄骨造は1坪当たり約34,000~47,000円、鉄筋コンクリート造は1坪あたり約35,000~80,000円が目安となり、木造住宅よりも解体費用が高くなると考えておきましょう。
解体費用は重機の侵入ができないような狭い場所や石綿(アスベスト)を含む建物の場合は高くなる傾向があります。
解体工事を依頼する時は現地調査と見積もりをとり、事前に費用を明らかにしておきましょう。
自分でできる片付けはやっておく
解体工事の費用を少しでも安くするために、自分でできる範囲で敷地の中を片付けておきましょう。解体工事は敷地内にある残留物が多いとその分撤去費用が多くかかります。
建物を解体したときにでる木材やコンクリートは産業廃棄物として処理されますが、家具や家電は一般廃棄物として処理しなければなりません。
一般廃棄物が混ざっていると分別作業と運搬コスト、処理費用が増えることになり、結果として解体費用が高額になります。そのため、実家に残された家財を自分で片付けておくとその分費用を節約できます。
物が多い場合や大きなものがある場合は遺品整理業者の料金と解体工事の見積もりを比較して決めるのがおすすめです。
解体業者の閑散時期を狙う
解体業者の閑散期に工事を依頼して解体費用を抑える方法もあります。繁忙期は人手不足になるため、人件費が高騰し解体費用が高くなったり、値引きできなかったりするのです。
解体工事の閑散期は6~9月です。ただし、この時期は天候に左右されやすく、梅雨や台風などの影響により解体工事の工期が長くなる可能性には注意が必要です。
またお盆の時期は休業に入る業者も多く、8月は思うように工事を依頼できないこともあるでしょう。
一方、解体工事の繁忙期は2~3月、11~12月です。2~3月は公共工事の発注が多くなり、年末は固定資産税の割賦日である1月1日までに工事を終わらせたい人のニーズが高まります。
実家の解体費用に関するよくあるトラブル

実家の解体をめぐり、相続人間でトラブルに発展することは少なくありません。
ここではよくあるトラブル事例を紹介するのであらかじめ内容を把握しておき、相続争いを未然に防ぎましょう。
解体費用負担を巡って相続人同士でもめる
不動産を共有名義にした場合や、不動産を共同して売却し、売却益を分割する換価分割を選択した場合、解体費用を巡りもめ事に発展するケースがあります。
また、遺産分割協議の際に実家を引き継ぐ人が解体費用分の現金も含めて資産を分けようとした場合に、費用の額でもめることもあるでしょう。
解体費用が不明瞭なまま話し合いを進めると「思っていたよりも負担額が多かった」などとトラブルが起こる可能性があります。トラブルを避けるためには見積もりをとり、費用を明確にしたうえで話し合うことが大切です。
相続人の一部が解体・売却に反対する
一部の相続人が実家の処分に反対して話が進まないケースもあります。
相続登記を済ませていない状態では所有者は被相続人のままであり、法的には相続人全員の共有状態となります。この状態で建物の解体や売却を行う場合は相続人全員の同意を得なければなりません。
相続人のなかには実家に愛着を持っている人もいるでしょう。しっかりと話し合い、解体の理由を説明する、解体費用をほかの相続人で負担するなどして解決を目指しましょう。
問題解決を先延ばしにして空き家になる
実家の解体について親族と折り合いがつかず、空き家のまま放置されてしまう場合があります。人が住んでいない家は、どんどん劣化していき、老朽化が深刻になってしまいます。
空き家が放置されていると、不審者に侵入されやすくなったり動物や害虫の棲み家になったりするだけでなく、倒壊リスクも高まり、苦情を受けるなど近隣に迷惑をかけてしまうかもしれません。
そうなると結局解体しなければならないことになってしまうケースも多いので、できるだけ早く話し合いをまとめて活用方法を決めましょう。
実家の解体費用を払えない場合の対処法

相続財産に現金が少なく、実家の解体費用を賄えない場合はどのようにすればよいのでしょうか。
以下に対処法を挙げているので、最も適した方法を選択して解決を目指してください。
補助金制度を活用する
各自治体は空き家解体に補助金・助成金の制度を設けています。受け取れる補助金は自治体によって異なりますが、多くの場合、解体費用の20~50%、上限100万円を受け取れます。
条件や補助される金額の詳細については自治体のホームページで確認してください。補助金は解体工事を開始する前に申請する必要があります。
また、補助金額が上限に達すると受付が終わってしまうので、できるだけ早く自治体の窓口で相談するようにしましょう。
解体費用をローンで調達する
解体費用を一括で支払えない場合はローンを利用して資金調達することも可能です。
金融機関には「空家解体ローン」という商品が用意されており、担保、保証人不要で解体費用を借り入れられます。比較的審査に通りやすく、金利が低い点もメリットです。
立地条件によっては、家屋を解体して更地にしなければ土地が売りにくいケースも多くあります。その場合はローンを利用するのがおすすめです。
ローンの条件は各金融機関で異なるので、取引のある金融機関のホームページをチェックしておくとよいでしょう。
賃貸物件として運用する
空き家を賃貸物件として活用する方法もおすすめです。賃貸にすれば定期収入となり、収益で固定資産税などの費用も賄えます。
ただし、入居者が見つかりにくい条件の物件は空き家の状態が続いてしまう、必要に応じてリフォームまたは新築に建て替えなければならない、などのデメリットがあります。
賃貸経営を検討している場合は、不動産業者に家賃設定などについて相談してみるとよいでしょう。
売却代金から費用をまかなう
空き家を建物つきのまま売却し、その売却益で解体工事を行う方法もあります。この方法の最大のメリットは自己資金が必要ない点です。
遺産が実家の建物と土地しかなく、現金がほとんど残っていない場合にも有効な方法といえるでしょう。
ただし、建物つきの土地は評価が下がり売却価格が安くなる可能性がある点、売却できるまで時間がかかる可能性がある点はデメリットです。
有利な条件で売却するには、複数の不動産業者に相談し査定してもらうことが大切です。
建物つきのまま売却する
土地を建物ごと売却する選択肢もあり、この方法なら解体費用を負担する必要がなくなります。立地がよい場合や、建物の老朽化があまり進んでいない場合は買い手がつきやすいでしょう。
ただし、立地などの条件があまりよくない場合は買主から解体費用分の値引き交渉をされる場合があります。
このとき、高い値引き額を提案されてしまうこともあるので、あらかじめ解体費用の相場を把握しておくと失敗を防げます。
業者買取に依頼する
解体費用がなく、空き家を売却したいときは、不動産会社や買取業者に直接空き家を買取してもらう方法を検討してもよいでしょう。
空き家を買取で売却するメリットは、解体費用を負担せずに済むこと、短期間で現金化できること、仲介手数料がかからないことです。
その一方で、仲介による不動産売買よりも買取価格が安くなる場合がある、必ずしも買取に応じてもらえるかは分からない、といったデメリットもあるので十分注意が必要です。
実家の解体費用に関するよくある質問

ここでは実家の解体や解体にかかる費用に関してよくある質問とその回答を紹介します。
親の財産のなかに住む予定のない住宅がある場合は、トラブルを避けるために以下の内容をチェックしておくと安心です。
特定空家等に指定されるとどうなる?
特定空家に指定されると所有者にさまざまなデメリットが生じます。特定空家の所有者に自治体ははじめに「助言」「指導」を行いますが、改善が見られない場合は「勧告」を行います。
勧告されると状況が改善するまで固定資産税の優遇措置の対象外となるので注意が必要です。
居住用の土地に対する固定資産税は200㎡以下の部分は課税標準の6分の1に軽減されているので、優遇措置が撤廃されると固定資産税が最大でこれまでの6倍となるのです。
勧告でも改善されなければ「命令」が出され、命令にも応じない場合は50万円以下の過料の対象となります。命令されても改善がない場合は行政代執行が行われる場合もあります。
参考:「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)|国土交通省
弁護士や税理士などの専門家への相談タイミングは?
不動産相続に関連する空き家の解体は、必要に応じて専門家に相談し対応しましょう。
空き家を放置してしまい、自治体から何らかの連絡が来た場合はできるだけ早く弁護士に相談しておくとよいでしょう。
不動産相続でトラブルになった場合だけでなく、揉め事が予想される場合は相続開始前から相談しておくと安心です。
また、相続税の申告期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内です。期限はあっという間に来てしまうので、税理士には相続開始から2か月以内に相談するようにしましょう。
相続放棄した家の解体費用は誰が払う?
相続放棄した場合、ほかに相続人がいれば実家の解体費用はほかの相続人が支払います。
相続人全員が相続放棄した場合は相続財産法人が設立され、この場合の解体費用の負担者は、家庭裁判所が選任した相続財産清算人です。
相続財産清算人は被相続人との関係や相続財産の内容などから判断のうえ選任され、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることもあります。
相続財産清算人は家庭裁判所に申し立てなければ選任されません。相続財産清算人が選任されていない場合は所有権がなくても相続放棄をしたときに実家に住んでいた事実がある人に管理義務が発生し、解体費用を請求される可能性も否定できません。
そのため、できるだけ早く家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てるようにしましょう。
まとめ

不動産相続では、実家の解体費用をだれが支払うかで揉めることが少なくありません。
民法改正により空き家対策も強化されているので、相続がスムーズに進むように早いうちから親族間で話し合いをしておく、解体業者に解体費用の見積もりをとっておくことが大切です。
解体の際には滅失登記の手続きも必要なので将来の相続で不安な場合は専門家に気軽に相談してみるとよいでしょう。
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