住宅ローンの返済がなんらかの事業で困難になった場合、自宅の任意売却が視野に入ります。
売却価格とローン残高が相殺できれば問題ありませんが、下回ってしまうケースも少なくありません。残債が発生した場合は、引き続き返済が必要です。
返済方法は金融機関によって一括または分割払いが認められることもあります。また、分割払いでも返済が厳しい場合は、いくつかの対処法もあります。
この記事では、任意売却後の残債を放置するとどうなるのか、そして返済に困ったときの具体的な対処法について解説します。
任意売却後の残債が払えないとどうなる?
任意売却を行った後の残債が支払えない場合、連帯保証人に請求されたり、最悪の場合は財産の差し押さえを実行されたりします。詳しい内容を一つずつ解説します。
任意売却をしても返済義務は残る
売主が売値を設定できる任意売却は、オークション形式の競売よりも高値で住宅を売却しやすい方法です。
しかし、売却代金がローン残高に満たない場合は、その差額を残債として返済しなければなりません。返済の負担を軽減させるためには、少しでも高値で売却することが重要です。
連帯保証人も残債の支払い義務がある
任意売却を行う際は、原則として連帯保証人の同意が必要です。任意売却後の残債についても、連帯保証人は引き続き支払い義務を背負うことになります。
主債務者の支払いが滞ったり、自己破産を行ったりした場合、金融機関(債権者)は連帯保証人に請求することが可能です。
支払えない場合には、連帯保証人が所有する不動産や車などの資産を差し押さえられるケースもあります。
信用情報に事故情報が残る
日本には、CIC・JICC・KSCという3社の信用情報機関が存在し、主にクレジットカードやローンなどの取引履歴が保管されています。
任意売却自体が信用情報として記録されることはありませんが、残債の支払いが滞ると金融事故歴として残る可能性があります。
ただし、任意売却を行っている時点で住宅ローンの返済を数か月滞納されている方も多く、すでに登録されているケースも少なくありません。ご自身の信用情報が気になる場合は、情報開示を申し込むことも可能です。
放置すると強制執行を受ける
残債を放置すると、金融機関は最終的に給与や預金などの財産を差し押さえます。差し押さえが可能なのは、可処分所得(手取り額)の4分の1までです。
たとえば、月30万円の給与所得がある場合、毎月7万5,000円を完済し終えるまで差し押さえられてしまいます。
残債を支払えずに悩んでいる状況で強制執行されてしまうと、ますます生活が苦しくなってしまうかもしれません。
ここまでの事態に陥らないためには、残債の支払いが厳しいと感じた時点で、早急に対策を行う必要があります。
利息や返済額の交渉はできる
任意売却後の残債の返済方法については、債権を所有している金融機関か債権回収会社と交渉できます。
債権者側も、任意売却を行った時点で生活に困窮している状況は理解しているため、無理な返済を強要されることはほぼありません。一般的には無理なく払えるよう、月々1~3万円程度の分割払いで和解が成立します。
また、残債が減額されなくても、利息をカットして負担を軽減してもらえるケースもあります。
返済先は金融機関か債権回収会社
通常の住宅ローンでは、契約した金融機関が債権者(貸したお金を返済してもらう権利を持つ人)です。しかし、任意売却後の残債については、債権者が債権回収会社(サービサー)に移行している場合があります。
債権回収会社は、金融機関などから不良債権を買い取り、代わりに回収することで利益を得ている会社です。
債権回収会社は、ほかの不良債権とまとめて格安で買い取るなど、債権の全額を回収しなくても利益が出る仕組みを採用しています。そのため、金融機関よりも柔軟な交渉が可能なケースが多いといわれています。
時効が成立するのは難しい
借金には時効があり、返済しないまま定められた期間を過ぎると、返済義務を消滅させることが可能です。
任意売却後の残債についても同様に時効があり、通常「権利を行使できることを知ったときから5年」または「権利を行使できるときから10年」のどちらかに定められています。
わかりやすくいうと、5年~10年間お金を返済せずに時効が成立し、所定の手続きを行えば返済義務をなくすことが可能なのです。
ただし、この時効は債権者からの請求や差し押さえなどの法的な手段を実行するとリセットされます。
債権者は期限を迎える前に財産の差し押さえや連帯保証人への請求などを実施するため、時効が成功するケースはほとんどありません。
任意売却で残債が出る理由は?
オーバーローンや物件の状態が悪い場合、任意売却を行ってもローン残高が補えないことがあります。
オーバーローン
オーバーローンとは、不動産の現在価値がローン残高を下回っている状態を指します。
たとえば、3,000万円の価値がある物件に対して、住宅ローン残高が3,300万円ある状態がオーバーローンです。原因としては、不動産価値の下落や購入時の過大な借り入れ、あるいは両方当てはまるケースもあるでしょう。
住宅ローンでは、物件価格に諸費用を加えた金額を借り入れることもオーバーローンと表します。
貯金がほとんどなくても住宅を購入できる便利な方法ではありますが、物件を相場相応で売却しても残債が生じてしまう可能性があるため、注意が必要です。
物件の状態が悪い
物件の管理状態が悪く、修繕や補修が必要な場合、売却価格が大きく下がることがあります。
長期間の管理不足によって雨漏りや浸水、シロアリによる浸食がすすんでいる状態などはありがちな例です。
そのほか、災害によって建物が損傷していたり、設備が老朽化していたりする場合は、想定よりも不動産価値が下回り、ローン残高に届かなくなることもあります。
任意売却後に残債が支払えないときの対処法
残債の支払いが難しい場合は、少額返済できるように交渉したり、親族間で売買をしたりといった対処法があります。
めぼしい対策が見つからない場合は、債務整理によって残債を大幅に減額する、または支払い義務を免除してもらう道もあります。
残債の分割払い
任意売却後のローン残高にもよりますが、一括払いが厳しいという方も多いでしょう。
任意売却後は債権を所有している金融機関または債権回収会社に対して、残債の分割払いができないか交渉することも可能です。
交渉は任意売却を担当した不動産会社に依頼することが多く、「売却価格の分配案」や「生活状況表」などを作成して、債務者が無理なく支払える分割支払金を提示します。
たとえば、住宅ローンを毎月10万円支払っていた場合でも、任意売却後は毎月1~3万円程度の少額返済が可能になるケースも多いのです。
支払いが長期化すると利息の増加が気になりますが、債権者によっては任意売却後の利息を請求しない場合があり、住宅ローンを支払い続けるよりも大幅に負担を軽減できます。
親族間での売買
任意売却前から残債の支払いが難しいことが確定しており、かつ親や子どもなど家族のサポートが受けられる場合は、住宅を親族間で売買する方法があります。
場合によっては、賃貸のように家に住み続けながら賃料を支払う「リースバック」によって、いずれは自宅を買い戻す前提で交渉できるかもしれません。
ただし、家族が住宅ローンを肩代わりした場合「みなし贈与」として贈与税が課税されてしまう可能性があります。
また、親族間売買では住宅ローンが利用できないケースもあるため、前向きに検討してくれる金融機関を選別する必要があります。
債権回収会社との交渉
債権が金融機関から債権回収会社へ譲渡されている場合は、債権回収会社と返済方法を交渉することになります。
債権回収会社と聞くと厳しい取り立てがあるのではと想像する方もいらっしゃるかもしれませんが、法務大臣から認可を受けて運営している法人なので、違法な取り立てが行われることはありません。
また、金融機関よりも柔軟に対応してもらえることも多く、必ずではないものの債務の圧縮や返済条件の緩和などが許可されるケースもあります。
現在の債権者がわからない場合は、住宅ローンの請求に関わる郵送物を確認するか、任意売却を依頼する不動産業者に相談してみましょう。
残債の債務整理
債務整理とは、借金の減額や免除、利息カットなどによって、返済のお悩みを解決する方法です。
残債の支払いが厳しい場合は、裁判所に申し立てを行う「個人再生」か「自己破産」のどちらかの手段を選ぶことになるでしょう。
個人再生
個人再生は、債務を5分の1程度(債務が3,000万円を超える場合は10分の1程度)まで減額したうえで、原則3年(最大5年)かけて返済する制度です。
最大で残債を100万円程度まで引き下げられるため、返済の負担が大幅に軽くなります。また、自己破産の場合は一部の職業で制限が設けられていますが、個人再生にはありません。
債務は任意売却後の残債に限らず、利用中のショッピングローンや自動車ローンなども対象です。
債務総額の負担が軽くなる代わりに、たとえば自動車ローンもセットで免責を受けた場合は、マイカーを債権者に回収されてしまう可能性があります。
そのほか、信用情報に記録が残る、官報に掲載される、減額された借り入れ分の請求が連帯保証人に及ぶなどのデメリットがあります。
自己破産
自己破産は、すべての債務が免責される、つまり借金全額の返済義務がなくなる制度です(税金の未払いやギャンブルによる負債は別です)。
個人再生は、減額された残債の返済を行うため、安定した収入がなければ利用できませんが、その場合は自己破産の選択が取られることもあります。
また、減額されても返済の目途が立たない場合にも、自己破産が視野に入るでしょう。
自己破産は個人再生よりもデメリットが多く、その一つに士業や警備員、宅建士など一部の職業に一定期間就けなくなる点があります。
信用情報に記録が残る期間が5年~10年と長く、その間はクレジットカードやローンの契約ができなくなります。
そのほか、任意売却の場合は残債全額の返済義務が連帯保証人に降りかかってしまうため、大きな負担をかけてしまう恐れがある点も認識しておきましょう。
任意売却後に残債が支払えないときのよくある質問
最後に、残債の支払いでお困りの方からよくある質問に回答します。
残債処理で連帯保証人に迷惑をかけない方法は?
連帯保証人への影響を最小限に抑えるためには、まず債務者本人が可能な限りの返済努力を続けることが重要です。
具体的には、収入に応じた分割払いに応じてもらえるよう債権者に交渉したり、資産の売却を検討したりするなどの対応を取りましょう。
それでも返済が厳しい場合は、借金全額の返済を迫られる自己破産より、主債務者が一部負担する個人再生を優先的に考えてみてください。
また、連帯保証人も返済が厳しい場合には、主債務者とは別に債務整理を行う道もあります。
ずっと少額の分割払いでも問題ない?
債権者の同意が得られれば、少額での分割払いを長期間継続することは可能です。ただし、利息がカットされなかった場合は、支払いが長期間続くことで利息負担が大きく増加する可能性があります。
また、収入減少や予期せぬ支出などによって再度返済が困難になったり、貯蓄がしにくくなったりといった弊害が出るかもしれません。
さらにいえば、将来的に住宅購入やその他なんらかのローンによって資金調達が必要になった場合、返済中の債務が生涯になる可能性も考えられます。
無理なく返済できる範囲で、可能な限り返済期間を短縮するのが望ましいでしょう。
まとめ
任意売却後の残債は、全額返済の義務があります。返済に困った場合は、本記事で紹介したように、以下いずれかの対策を検討してみましょう。
- 分割払いで返済する
- 親族に買い取ってもらう
- 利息や返済額が軽減できないか債権者に交渉する
- 債務整理(個人再生・自己破産)を行う
残債を放置してしまうと、連帯保証人に請求が及ぶ、給与や預金などの財産を差し押さえられるなどの事態を招きかねません。
また、債務整理は債務者にリスクがあるほか、連帯保証人にも負担がかかってしまう方法です。
実績や経験が豊富で、弁護士など法律に詳しい専門家に相談したうえで慎重な判断が必要です。
コメント