長屋の切り離しで倒壊しない?工事前に知っておくべきポイント

長屋は江戸時代から使用されてきた日本の伝統的な集合住宅ですが、老朽化により、建物全体の解体や、一戸のみを解体する「切り離し」のニーズが高まっています。

しかし、長屋の切り離しは、建物の解体工事のなかでも特にトラブルが多い工事のため、十分注意が必要です。

この記事では、長屋の切り離し工事で倒壊リスクを心配される理由や、工事の際に起こりやすいトラブルを紹介します。

目次

長屋の切り離しで倒壊が心配される理由

長屋は戸建て住宅のように重機で一気に解体できないため、慎重に行う必要があります。

特に古い長屋は老朽化しており、切り離すと倒壊してしまうのでは、と心配する人も少なくないでしょう。

ここでは、長屋の切り離し工事で倒壊を懸念される理由を紹介します。

耐震強度が下がる可能性がある

建物は建築時の完全な状態で最大の強度を保つため、切り離すとどうしても耐震性が下がってしまいます。そのことから切り離しによる倒壊リスクを心配する人も多いでしょう。

長屋の場合、切り離すとこれまで内壁だった壁が、必然的に外壁になります。内壁と外壁は構造が異なるため、そのまま外壁に使おうとすると強度に問題が生じるのです。

この問題を解決するためには、最適な方法で耐震補強工事を行う必要があります。家屋調査等で切り離し前と切り離し後の強度を計算して比較し、必要な工事を行うことで地震による倒壊を防ぎます。

切り離し工事中の不安定な構造

切り離し工事中の建物が不安定になることで、倒壊が心配される場合もあります。

古い長屋の切り離しでよく見られるのが、土台部分が腐って劣化しているケースです。このような老朽化した建物では梁や桁を一気に切り取ってしまうと構造上不安定になり、倒壊リスクが高まるでしょう。

切り離し工事での倒壊を防ぐために、重要な梁や桁は、工事のできるだけ終盤まで残しておくか、少し残して切断して対応します。

建物の老朽化で切り離しが困難

古い長屋で老朽化により傾いている場合など、構造的に切り離しが難しい場合もあります。

傾いた状態でも切り離し工事を行う場合、その補修工事も必要です。強度を保つために大掛かりな工事が必要になり、補修費用の支払い額がかさんで工事を開始できないケースも考えられるでしょう。

補修工事については、事前にしっかりと構造を確認しておき、見積りによりかかる費用を明らかにしておきましょう。

そもそも長屋ってどんな建物?

長屋とは、一つの建物に複数の住戸が連なっている建物のことで、外からそれぞれの住戸へ直接出入りできるものを指します。建築基準法では長屋は一般的な住宅に分類され、多くが木造です。

ここでは、長屋の種類や共同住宅との違いについて解説します。

長屋の種類と特徴

長屋には、横並びに住戸が連続している棟割長屋と上下階が独立した住戸になっている重層長屋があります。

棟割長屋は、各住戸が界壁と呼ばれる壁で区切られている長屋です。横方向のみではなく、両隣と背中合わせに住戸が作られる場合もあります。重層長屋は1階住戸も2階住戸も1階部分に玄関があり、上下階で間取りが違う点が特徴です。

また、最近ではテラスハウスやタウンハウスと呼ばれるタイプもあり、テラスハウスはそれぞれの敷地の独立性が高く、一戸建てのような感覚で過ごせます。

一方でタウンハウスは敷地を全体で共有しており、緑地など住民が利用できるスペースがあります。

長屋と共同住宅の違い

長屋とアパートやマンションのような共同住宅の大きな違いは、共用部分があるかないかです。アパートやマンションでは共用の廊下や階段、エントランスがあり、専有部分である各住戸へはこれらの共用部分を通って入ります。

一方で、長屋の共用部分は外壁と隣の住戸の境界となる界壁のみで、それ以外の空間は共有しません。

また、共同住宅は建築基準法上では「特殊建築物」に分類され、消防設備の設置基準などが定められていますが、長屋は該当しません。

長屋切り離しによる問題点とトラブル

では、実際に長屋の切り離し工事ではどのようなトラブルが起こりやすいのでしょうか。

以下で代表的なトラブルの例をお伝えしているので、問題発生の理由を把握し、スムーズに対応できるようにしておきましょう。

工事中の騒音が酷い

長屋切り離しに限らず、解体工事では騒音と振動によるクレームがつきものです。

解体工事は法律により騒音や振動に規制があり、基準値を超えないよう配慮して作業を行っています。とはいえ、いざ工事が始まると住民にとっては大きなストレスになってしまうこともあるでしょう。

解体工事で騒音と基礎の解体などによる振動が発生することはやむを得ず、ある程度我慢してもらう必要があります。

しかし、クレームを防止するためには、事前に挨拶をしておき、住民の理解を得ることが大切です。

住民の同意が得られない

住民と意見がぶつかったり、所有者と連絡が取れなかったりして同意が得られず、工事ができないというのはよくあるトラブルです。

長屋は屋根や梁を複数の世帯で共有しています。そのため、区分所有法により、ほかの住民の同意を得なければなりません。区分所有法では、所有者全員の決議により隣人と全所有者の4分の3以上の承諾が必要です。

各所有者には工事に合意する義務はなく、合意するかどうかは個人の自由です。そのため、あらかじめ条件を提示しながら交渉を進めていく必要があるといえるでしょう。

同意後に反対される

一度切り離しの合意を得たにもかかわらず、あとになって反対されるケースも少なくありません。よくあるパターンは、同意したあとになって、切り離し後の強度について不安になる場合です。

また、所有者本人は合意していても、家族が権利を主張して意見が変わってしまうことも珍しくないでしょう。

書面による取り決めをしていれば、基本的にそれがひるがえることはありません。そのため、できるだけ早い時期に所有者から書面による同意を得ておく必要があります。

補修方法や金額で折り合いがつかない

新しく取り付ける外壁の新設など、長屋の補修方法で意見が合わず、工事が開始できない場合があります。住民が希望する素材の金額が高く、施主の負担が大きくなり揉め事に発展する可能性も考えられるでしょう。

住民と意見が異なると、話し合いが長引き、お互いの関係性に悪影響が生じて、いつまでたっても工事が完了しない場合があります。

折り合いがつかないときは、長屋切り離しに実績のある専門家を交えて交渉すると安心です。

長屋切り離しの注意点

長屋の切り離し工事でトラブルを避けるためには事前準備をしっかりと行っておくことと、費用負担の範囲を明確にしておくことが大切です。

以下で紹介する注意点を参考に、しっかりと計画を立てて切り離し工事を実施しましょう。

家屋調査を事前に行っておく

工事を検討する際は建物の構造や状態について、専門家に依頼して家屋調査を行っておきましょう。
事前調査を行っておけば、工事開始後に切り離しが困難な構造をしていることが判明して想定以上に費用がかかってしまう、といったトラブルを避けられます。

また、建築士の診断や家屋調査士の事前調査を行っておけば、隣家とのトラブル回避にもつながるでしょう。これは建物の傾きや破損状況を測定し、記録しておくと、工事後に何らかの破損が見つかった場合、その原因を突き止められるためです。

隣家と自分の、双方が納得いく形で工事を行うために事前調査は必ず行っておきましょう。

事前の説明と交渉を十分に行う

長屋の切り離しを行う際には、ほかの所有者に十分な事前説明を行う必要があります。

費用はすべて施主が負担すること、老朽化した部分の補修方法、工事期間、起こりうる騒音・振動・粉塵の対策など、できるだけ細かく伝えましょう。

既に業者が決まっている場合は、業者の担当者からも工事内容について説明してもらうと良いでしょう。

住民にしてみれば、住んでいる建物の一部を解体すると言われたら、工事中のことだけでなく自分が占有している不動産はどうなるのかなど、不安になるのは当然です。

工事の内容についてできるだけ詳細に説明されているだけでも安心感につながるため、丁寧に対応することが大切です。

補修費用は施主の負担となる

長屋切り離しでは、建物を切り離したあと、建物の強度や快適性を確保するために補修工事を行う必要があり、この補修工事の費用も施主が負担します。

切り離し工事では多くの場合、外壁を補修することになり、必要に応じて耐震補強や損傷している部分を補修します。そのほか、雨漏り防止のために屋根部分の防水対策も必要です。

また、長屋は電線やインターネット回線も共有されているケースがあるため、回線をどこに接続するか事前に協議したうえで、電力会社などに接続し直してもらう必要があり、これも施主の負担となります。

補修の責任範囲を明確に決める

切り離し工事を実施する前には補修の責任範囲を書面で明確に決めておきましょう。

一般的に長屋切り離し工事では現状と同程度まで補修することが施主の責任です。つまり、切り離しにより住宅の強度が落ちた場合、元の強度になるまで耐震工事を行わなければなりません。

一方で、住人が補修でこれまで以上の性能を希望したり、施工費用を請求されたりしても、施主が負担する必要はありません。住人への事前説明の際に、責任の範囲を明確にしておき、トラブルを防ぎましょう。

通常の解体工事よりも費用が高くなる

長屋の切り離し工事は、一般的な戸建て住宅の解体と比べて手間がかかるため、費用も高額になります。連棟という構造上、重機で一気に取り壊せず、場所によっては手作業で慎重に解体しなければなりません。

古い長屋は木造ですが、最近建てられた長屋は鉄筋コンクリート造のタイプもあり、その場合、費用が高額になります。

切り離し工事の費用相場は木造の20坪の場合、150万円程度が目安です。構造や広さによって大きく費用が前後するため、事前に複数業者から見積りを取っておくと安心です。

長屋切り離しに関するよくある質問

長屋の切り離しを検討していると、さまざまな疑問が浮かび上がってきますよね。分からないまま工事を依頼してしまうと、後で問題に直面する可能性があるため、注意が必要です。

ここでは、長屋切り離し工事でよくある質問とその回答を紹介しています。工事を検討している場合はチェックしておきましょう。

長屋切り離しで境界はどうなる?

長屋を切り離した場合、こちら側の境界が狭くなる点は留意しておいた方が良いでしょう。

多くの場合、長屋の壁は共有で使われているため、境界線が壁の真ん中にあります。切り離し工事をしたあとは、必然的に境界線が切り離した側にずれ、切り離した側が狭くなります。

また、切り離した土地に建物を新築する際、敷地境界線から50cm離す必要があり、想定以上に建物が狭くなってしまうこともあるので、あらかじめ住居の面積がどれくらいになりそうか確認しておきましょう。

長屋切り離しで外壁補修はトタン以外になにがある?

長屋切り離しの外壁補修では、以前はトタンが主流でしたが、現在ではさまざまな種類の外壁材が採用されています。よく使用される素材はコストパフォーマンスに優れたガルバリウム合板ですが、モルタル、サイディングなどが採用されることもあります。

モルタル外壁は意匠性に優れ高級感のある外観を実現でき、サイディング外壁はそのデザインの豊富さから、希望通りの外観に仕上げられる点がメリットです。

外壁材にはそれぞれメリットとデメリットがあるので、予算と照らし合わせて希望の素材を選ぶと良いでしょう。

まとめ

長屋切り離し工事はトラブルが多いため、事前にしっかりと準備しておき、住民の許可を取得する必要があります。

調査を形式的に済ませたり相手を軽んじる行為をしたりすると裁判沙汰に発展する可能性があるため、慎重に交渉することが大切です。

工事を円滑に行うためには業者選びも重要です。見積りを依頼する際は、長屋切り離しの施工経験が豊富で、補修工事を行う工務店と連携しているかどうかも確認しておきましょう。

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