もし、解体工事業者が解体予定ではない家を誤って解体してしまった場合、どうなるのでしょうか。壊してしまった家は元に戻すことはできませんよね。
このような大きなミスは滅多に起こらないことではありますが、100%可能性がないとは言い切れません。そのため、実際に起こった場合にどうなるのか知っておいた方が良いでしょう。
今回は、家を間違えて解体した場合の責任の所在や賠償について解説します。
家を間違えて解体した場合の責任の所在は?
万が一隣家の建物や外壁、塀を間違えて解体してしまった場合、責任は誰が追わなければならないのでしょうか。
ここでは、ケース別に責任の所在を解説するので、施工前にどのように確認を行っていたのかも併せてチェックしてください。
解体範囲を明確に共有していた場合
解体工事を行う箇所を業者と施主で明確に共有していた場合、業者側に賠償責任があると民法第709条に示されています。そのため、解体工事業者は、故意であっても過失であっても損害を与えた場合は損害賠償責任を負う必要があります。
ここで言う「明確に共有」とは具体的に以下のような場合です。
- 施主が現場で、業者が解体範囲に印をつけたことを実際に確認したケース
- 解体範囲を図面で明確に指示しているケース
- 写真で解体範囲を指示しているケース
写真や図面で確認しているにもかかわらず間違いが起こる理由は、業者側で写真撮影や図面を作成しているためです。
ミスを避けるためには、施主も新築時に作成した図面を用意する、施主が事前に写真をよく確認するなどの対策が必要です。
施主が確認を怠っていた場合
施主の間違った指示により解体作業を行った場合、施主が責任を負わなければならないケースがあります。
民法第716条では、基本的に施主は、解体工事業者が第三者に損害を与えた場合、賠償責任を負う義務はないとしています。
ただし、指示に過失があった場合、施主も賠償責任の対象になることが記されています。指示の過失とは具体的に、悪天候の日に作業を指示していたなどです。
また、施主がしっかりと伝えているつもりでもお互いの勘違いで間違ってしまっているケースがあります。
業者にきちんと伝わっているかどうか確認を怠った場合は、施主が責任を問われることもあるので注意が必要です。
家を間違えて解体した場合の賠償請求の流れ
誤って家を解体してしまった場合、どのような流れで損害賠償請求が行われるのでしょうか。
賠償については解体業者が対処しますが、注文者としても知っておきたいですよね。ここでは、一般的な流れを紹介します。
被害者からの損害賠償請求
はじめに、被害者と解体工事業者の間で損害賠償についての話し合いをします。補償の内容がまとまれば、示談が成立し、賠償金の支払い手続きや補修作業に移ります。
話し合いで解決しない場合、被害者は簡易裁判所の民事調停が利用可能です。また、調停以外の問題解決の方法に裁判外紛争処理手続(ADR)があります。
ADRは、民事でのトラブルを第三者が調停やあっせんを行い、解決をはかる手続きです。解体工事の場合、建設工事紛争審査会、日本不動産仲裁機構、弁護士会の住宅審査会などの法律の専門家が紛争処理を行います。
調停やADRでも解決できない場合は、損害賠償請求訴訟を提起し、裁判によって決着をつけます。
最もスピーディーに賠償手続きが進むのが直接交渉です。一方で訴訟に発展すると解決まで時間がかかるでしょう。
解体業者の保険適用と補償手続き
解体業者の多くは損害賠償保険に加入しています。間違えて隣家を解体してしまった場合に対応するのは「第三者賠償責任保険」です。
第三者賠償責任保険は、損害賠償金のほか、隣家の補修費用や訴訟費用など、解体工事に関するトラブルを広くカバーしている保険も多くあります。
解体工事の作業で誤って隣家を損壊してしまったことが発覚すると、業者はまず保険会社に連絡します。保険会社は、事故の内容に応じて保険料を算出。補償額が高額な場合や損害の把握が困難な場合は現場立会いを行う場合もあるでしょう。
その後、保険請求書類が送付され、解体業者が署名捺印して返送すると2週間程度で保険金が入金されます。
保険金支払いの流れは上のようになりますが、業者は速やかに被害のあったお宅の補修を開始し、隣人が一日でも早く通常の生活に戻れるよう努めます。
施主と解体業者間の責任割合の協議
上でも紹介した通り、原則として解体工事業者が間違えてほかの建物を解体してしまった場合、責任は解体業者にあり、施主は責任を問われません。
しかし、施主側が確認を怠った場合は、責任割合について協議するケースがあります。
特に施主が業者に何も指示をしなかったためにミスにつながった、間違って作業をしてしまうことを想定できたにもかかわらず業者に伝えたり、作業の中断を求めたりしなかった場合は「過失」とみなされる場合があります。
責任を問われないためにも、施主は作業前に解体部分についてしっかりと確認しておくことが大切です。
特に遠方の空き家の解体を発注するときなど、指定した家屋で立ち合いができない場合は確認を怠らないようにしましょう。
業者が間違えて家を解体することはある?
滅多に起こらない事例ではあるものの、実際に解体業者が間違えて隣の家を取り壊してしまったというトラブルは起こっています。
ここでは、業者が解体工事を間違えてしまう原因を紹介します。
解体業者の確認不足
誤ってほかの家を解体してしまう原因の一つとして挙げられるのは、解体業者の確認不足です。
施主にとって解体工事の依頼は初めて、というケースは少なくありません。そのため、指示が曖昧だったり勘違いにより間違っていたりする可能性があります。
解体業者は経験豊富な反面「こうだろう」という思い込みで作業をすると、隣人の家や塀を取り壊してしまうおそれがあるため注意しなければなりません。
現地調査を入念に行い、庭木や塀など、撤去するものを一つひとつ確認することでミスを防げます。
現地調査はミスを防ぐためだけでなく、トラブルを回避するためにも重要です。
解体工事では騒音、振動の発生、粉塵・ホコリの飛散、重機や車両の通行など、近隣住民に迷惑をかけます。事前にしっかり調査し、適切な対策をすることで工事をスムーズに進められるでしょう。
施主の指示ミスや情報提供の不備
施主の勘違いや重要な事項を伝え漏れたことが原因で、誤った箇所を解体してしまう場合もあるので注意が必要です。
施主は見積もりの際に解体する範囲や金額のほかに、近隣へ配慮した工事ができるよう、土地や周辺の状況を適切に情報提供しなければなりません。
また同時に、解体作業中の養生シートの設置や解体後の土地の整地になどついて、要望をしっかりと伝えておくと安心です。
工事が決定したら、近隣へ挨拶回りをすることも大切です。事前に近所の人に作業について説明し理解を得ておくことで、クレームを最小限に抑えられるでしょう。
挨拶回りは業者も行ってくれますが、施主も直接近隣住民に挨拶し、苦情や要望の受付窓口となる電話番号を伝えるなどしておくと良いでしょう。
隣接する建物の境界が不明確
境界線が分かりにくかったことが原因で、境界線を越えて隣家の敷地内の塀や所有物を一緒に解体してしまったというケースがあります。
稀に境界杭が紛失したり、地中に埋まってしまったりしたために見当たらず、正しい境界線が分かりにくい場合があります。そのような場合はそのまま工事を開始せずに、実測などで調査を行い、境界の位置を確認しなければなりません。
境界線の確認を行う場合は、隣の住民と協定を行い、共に立ち会ってもらい調査を実施するようにしましょう。
境界線の確認は解体業者にとっては基本的なチェック項目であるため、確認せずに作業するということはまずありえません。
しかし、実際に境界線の確認を怠ったために境界を越えて作業してしまったという事例もあります。このようなことを避けるためには、信頼のおける業者に依頼するようにしましょう。
まとめ
解体工事では打ち合わせを怠ると、誤って隣家の塀や建物を解体してしまうおそれがあります。
自宅の所有物を壊されることは隣家にとって物質的な損害だけでなく、生活に影響を及ぼしたり、精神的に大きな負担になったりするでしょう。
トラブルのない工事を進めるには経験豊富で信用度の高い解体工事業者を選ぶことが大切です。
複数の業者から無料見積もりをとり、建設業許可または解体工事業登録のいずれかを取得していること、損賠賠償保険に加入していることなどを確認して選ぶようにしましょう。
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