高齢化社会が進む日本では、全国で空き家が増加し続けています。借り手がなかなか見つからなかったり解体コストがかかったりして大変なため、放置した状態で保有し続けているケースも少なくないでしょう。
しかし、空き家を放置しているとさまざまなトラブルやリスクが発生しやすくなるので注意が必要です。
この記事では、空き家リスクや起こりやすいトラブル、その解決案を紹介します。
空き家を放置するリスクとは?
国土交通省は1年以上使用されていない建物を空き家と定義しています。空き家は放置したままにしていると、さまざまなトラブルの原因となるので注意しなければなりません。
ここでは空き家を放置するリスクを具体的に紹介するので、あらかじめ理解しておき、トラブルを未然に防ぎましょう。
建物が老朽化していく
空き家は建物の老朽化が加速する傾向があります。
長期間窓を閉め切り、人の出入りがない建物は湿気がたまりやすく、カビや害虫が発生しやすい状態です。そのため、放置された空き家は壁紙の剥がれ、柱の腐食、畳が朽ちるなどの不具合が起こります。
また、配管の内側に付着した汚れなどが乾燥して硬くなることで配管が壊れやすい状態になっています。
空き家を売却や賃貸などで活用したい場合は定期的に換気と水を流す作業をしておいた方が良いでしょう。
資産価値が減少する
老朽化が進んだ建物は資産価値が減少し、売却する際に思った金額で売れない可能性があります。
「資産価値」とは建物を財産として評価した価格のことで、不動産の取引価格とほぼ等しいものです。
資産価値は築年数が経過するとともに落ちていきます。空き家は老朽化が急速に進む傾向があります。劣化が進んだ建物は活用方法が限られ、大幅なリフォームが必要になることから資産価値が大きく損なわれてしまうのです。
倒壊などの危険性が増える
老朽化した空き家は倒壊の危険性が高まるため注意が必要です。
日本の家屋は大半が木造住宅。木でできた住宅は定期的な管理と適切な換気を行わなければ腐食して強度が弱くなってしまいます。
さらに耐震基準が改正される前の、昭和56年以前に建てられた古い建物は耐震性が低く、地震で倒壊するおそれがあります。
建物が倒壊に至らなくても、外壁の落下や屋根材が飛散する危険性も増えるでしょう。安全確保のためには、修繕するか、思い切って解体するかして対策する必要があります。
周辺の治安や景観を悪化させる
適切に管理されていない空き家は、治安に影響を及ぼしてしまいます。空き家は建物が劣化していくだけでなく、庭に雑草が生い茂りやすくなる点にも注意が必要です。
外壁が色あせて草が伸びると敷地全体の景観が悪くなります。また、家をきれいに保っていないと、防犯対策に関心がない家だと判断され、不審者に狙われやすくなります。
生い茂った雑草は、見通しを悪くして隠れ場所になりやすく、不法侵入されたり近隣の家が泥棒の被害を受けてしまったりするケースも。
近隣住民に迷惑をかけたり、不安にさせたりしないためにも、定期的に管理してきれいな状態を保ちましょう。
害虫や害獣が発生しやすい
空き家は害虫や害獣の発生リスクに注意が必要です。人が生活していればこまめに掃除をしますが、空き家は窓を開けていなくても塵やホコリが溜まっていきます。
塵やホコリが溜まった家は害虫にとって快適な場所です。害虫が増えるとフンなどにより建物内の環境が悪化してしまいます。
また、湿気により建物が腐食するとシロアリに住処にされるリスクが高まります。
シロアリの食害を受けると建物の強度が落ちるほか、食害や湿気による歪みからできた隙間から害獣が侵入するおそれもあるので、注意が必要です。
不法投棄される可能性がある
空き家を放置していると、敷地内に不法投棄されることがあります。ごみを捨てられてしまう理由は、管理されてない空き家は見つかりにくく不法投棄する人の心理的抵抗が少ないためでしょう。
不法投棄は生活ごみにとどまらず、粗大ごみを投棄されるケースも少なくありません。
不法投棄されたごみがそのままになっていると、悪臭や害虫などの被害を及ぼすおそれがあります。
もちろん、不法投棄は犯罪であり、見つかれば罰則が科されます。とはいえ、敷地をきちんと管理してごみを捨てにくい環境にすることは、所有者の責任といえるでしょう。
放火・火災の発生を招く
空き家に不法投棄されたゴミを放置したり、雑草をそのままにして枯草にしたりすると、不審火などの火災のリスクが高まります。
消防庁の調べでは、令和4年の日本国内の出火原因の1位は放火で、年間出火数のおよそ15%にものぼります。
敷地内やその周辺に燃えやすいものが放置されていたり、人目がなかったりする場所は不審者による放火リスクにつながるので注意が必要です。
放火は人口が集中している都市部に多い傾向があるため、都市部に空き家を所有している場合は十分に注意する必要があるといえるでしょう。
固定資産税が上がる可能性がある
空き家を長期間放置していると、固定資産税が高くなる可能性がある点には注意が必要です。
2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」により、適切な管理がされておらず、倒壊など近隣へ被害を及ぼす恐れがある空き家は「特定空家」に指定されます。
特定空家は、住宅用地の特例による税制が適用されません。更地と同じ固定資産税と都市計画税が課税され、これまでの6倍の固定資産税を支払うことになってしまいます。
支払う税金が多くなる事態を回避するためにも、特定空家の要件に該当しないようにきちんと管理しましょう。
空き家にも所有者責任が伴う
民法第717条では、たとえ居住していなくても、所有する建物でトラブルが発生した場合は所有者が責任を負わなければならないことが定められています。
もし、トラブルを起こした当事者がいたとしても、所有者に責任と賠償責任が伴うことは知っておきましょう。
損害賠償額が数千万円など高額になることも考えられるため、空き家を所有している場合は所有者としての自覚をもち、しっかりと管理してリスクをできるだけ抑えることが大切です。
空き家のリスクを減らすための解決策
では、空き家リスクを最小限にするにはどのようにすれば良いのでしょうか。
ここでは、よく利用される空き家対策を紹介するので、建物や立地の条件に合った方法を検討してください。
売却して現金化
今後の管理が負担だと思う場合や、将来相続トラブルの発生が懸念される場合は、売却して資産を現金に換える方法を選択すると良いでしょう。
売却は、空き家を解体して更地で売却する方法と、建物ごと売却する方法があります。
建物の老朽化が進んでいる場合は空き家ごと土地を売却するのは難しいため、解体して更地を売却した方が売りやすいといえるでしょう。
一方、建物の老朽化が進んでいない場合は土地に建物の売却益をプラスできるため、空き家ごと土地を売却するとお得です。
建て替えて貸し出し
空き家をそのままにせず、賃貸アパートなどに建て替えて家賃収入を得る選択肢もあります。
空き家のままでは固定資産税などで資産が目減りする一方だったのが、賃貸アパートにすることで入居者から毎月家賃収入を得られるだけでなく、賃貸経営している土地は相続税評価額が下がり、相続税の税金対策にもなります。
一方で、賃貸経営は空き家リスクや家賃下落リスク、管理コストがかかる点には注意が必要です。
賃貸経営を希望する場合は、専門家に相談しながら土地の場所とニーズに合った計画を立てるようにしましょう。
建て替えて住む
老朽化した空き家を解体し、土地に新築住宅を建てて自分で住むという方法もおすすめです。
建物が古いとリフォームに制限が出たり、耐震性に不安を覚えたりすることもあるでしょう。そのような場合は思い切って建て替えれば、家族のライフスタイルに合った安全な住まいが手に入ります。
とはいえ、建て替えはリフォームに比べて多額の費用が掛かるのも事実です。建て替えかリフォームかの目安としては、築50年以上の建物は老朽化が進み旧耐震基準の建物に該当するため建て替えがおすすめです。
築40年の建物は建物の状態により、リフォームか建て替えかを判断します。築30年以下の建物はよほど大きな不具合がない限りリフォームで十分でしょう。
資産の組み替え
空き家を別の資産に組み替えて活用すると、収益化を狙えるだけでなく相続税対策としても有効です。
空き家のままでは固定資産税など、毎年費用ばかりがかかってしまいます。そこで、空き家を売却して賃貸物件用の区分マンションを購入すると、安定した家賃収入が期待できるでしょう。
さらに、購入したマンションの不動産評価額が下がればその分相続税の負担を軽減できます。
使用していない空き家をそのままにしていると維持費と生活費で預金が切り崩され、将来に不安を覚えることもあるでしょう。その場合は空き家をほかの資産に組み替えて収入を得られるようにすると安心です。
等価交換
条件が良い土地であれば等価交換を利用して土地を活用する方法があります。等価交換とは、土地を出資し、デベロッパーが分譲マンションやオフィスビルなどの建物を建て、竣工後に建物の一部を出資した土地と等価で交換する建築方式です。
等価交換のメリットはローンを組まずに賃貸などの事業が始められる点、デベロッパーが主導して計画を進めるため、知識がなくても土地活用が可能な点です。
一方で条件が良いエリアでなければデベロッパーが建設計画を立てない点、竣工後は区分所有や共有となり権利が複雑化する点などがデメリットといえるでしょう。
自治体へ寄付
利用しない空き家は自治体に寄付するという方法もあります。ただし、自治体が必ずしも土地を引き取ってくれるわけではなく、ハードルは高いといえるでしょう。
自治体が土地の引き取りを検討してくれるかどうかの基準は自治体によって異なりますが、基本的に引き取れるのは有効活用できる土地や公共の場として利用できる土地となります。
寄贈を希望している場合はまず、担当窓口に相談してみましょう。
自治体が引き取ってくれない場合は、認可地縁団体への寄贈や個人へ譲渡する方法があります。地域の自治体に相談しながら他の方法を考えてみるのがおすすめです。
空き家リスクを減らすためのコツ
空き家は少しの工夫でトラブルを防げます。ここでは、空き家リスクをできるだけ減らすためのコツを紹介するので、日頃からポイントを押さえて、活用するときに困らないように空き家を維持しましょう。
空き家の状態を把握する
空き家を保有し続ける場合は定期的に空き家の状態をチェックし、状態を把握しておくことが大切です。
外構と基礎の状態に加えて、建物内の内装、建具、水回りに不具合がないか確認しましょう。このとき、換気をして簡単に掃除しておくだけで空き家の劣化を遅らせる効果が期待できます。
建物内だけでなく、建物の前の道路も掃除しておくとトラブルを防げます。
遠方でなかなか空き家に出向けない場合は監視カメラを設置するなどして敷地の現状をいつでも確認できるようにしておく方法も有効です。
なお、空き家を売却予定の場合は業者に査定を依頼することで状態を確認できます。売却を決断していない状態でも一度プロに家の状態をチェックしてもらうと安心です。
メンテナンス計画を立てる
空き家を劣化させないためには事前にメンテナンス計画を立て、定期的にリフォームすることが大切です。
住宅は経年と共にさまざまな部分が劣化していきます。屋根や外壁が劣化すると雨漏りの原因となり、家の内部に水が入り込んで腐らせてしまうおそれがあります。
もし、柱や梁など、家の重要な部分が腐食して破損すると家の強度が弱くなり、倒壊の危険性が高まるため、注意が必要です。
空き家は不具合に気づきにくく、トラブルが発生して急にリフォーム費用が必要になる場合があります。このようなことを防ぐためにあらかじめ計画を立て、リフォーム時期を決めておくようにしましょう。
空き家リスクに関するよくある質問
不動産相続で住む予定のない実家を引き継ぐと、さまざまな疑問が浮かび上がってくるでしょう。
ここでは空き家に関してよくある質問とその回答を紹介するので、チェックして不安を解消してください。
特定空家と判断される基準は?
特定空家は、市町村が調査を実施して認定します。調査の結果、特に問題があると判断すると特定空家に認定されます。
「特定空家に対する措置のガイドライン」が示す特定空家の基準は以下の通りです。
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
特定空家に認定されると市町村は所有者に対して「助言・指導」を行います。解決されない場合は「勧告」「命令」「行政代執行」と厳しい措置へ進んでいきます。
空き家を放置すると罰金って本当?
市町村から特定空家について「命令」を受けて期限までに改善しないと、空き家対策特別措置法16条により、50万円以下の罰金の対象となる点に注意が必要です。
命令を受けても改善されない場合、行政代執行により建物の解体が行われることがあり、解体費用は所有者に請求されます。
なお、命令の前の段階である「勧告」を受けた場合は、翌年から固定資産税の優遇制度が適用されなくなり、土地にかかる固定資産税が4倍となります。
支払う税金が多くなったり罰金を支払ったりすることのないよう、勧告、命令を受けたら速やかに対応しましょう。
まとめ
空き家を放置しているとさまざまなリスクがあります。近隣住民など第三者に被害が及ぶおそれがあるため、こまめに空き家の状況を確認するようにし、定期的なメンテナンスも怠らないようにしましょう。
空き家の活用方法にはさまざまなやり方があるので、土地の条件や家族のライフスタイルや用途に合った方法を選択することが大切です。
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