
敷地内に古い井戸がある場合、どのように撤去すればよいのでしょうか。古い井戸を放置していると危険なうえ、井戸がある土地は売却が難航する可能性があるため、適切に撤去しなければなりません。
今回は、井戸を埋め戻す手順や費用、注意点を解説するので、自宅や相続した土地に井戸が残されている場合は参考にしてください。
井戸を埋めるための解体手順

まずは井戸を埋める際の解体工事の手順を解説します。井戸の解体作業は基本的には解体工事業者に任せておけば問題ありませんが、お祓いなど施主が行うものもあるので、事前に流れを知っておくと安心です。
お祓いを行う
多くの場合、井戸はお祓いをしてから解体します。お祓いは一般的に家族に縁のある神社または近隣の神社に依頼します。井戸を埋めるお祓いは「井戸祓(いどばらい)」と呼び、井戸の神様に感謝を伝えるものです。
お祓いは基本的に井戸がある敷地内で行います。お祓いの形式や供え物、祭壇の用意など、用意するものは神社によって異なるので、事前に確認しておくと安心です。
建物の解体に伴って井戸を撤去する場合は、建物の解体の際に行うお祓いと同時に行います。
井戸の清掃
お祓いを終えたら解体業者が作業を開始します。まずは井戸内部の清掃です。
古い井戸はゴミが溜まっていることが多いため、ゴミを取り除きます。このとき、井戸の中に水が残っている場合は、ポンプなどを使って水も汲み出します。
井戸の底が汚れていると水質汚染につながるおそれがあるため、しっかりと清掃しなければなりません。また、井戸は深いため、安全を確保して慎重に作業します。
息抜きを行う
井戸の内部がきれいになったら竹や塩化ビニール製のパイプを差し込み、息抜きをします。
これは古い井戸の底にはガスが溜まっている可能性があるためです。ガスを抜かずに埋め戻しを行うと地盤沈下を起こす可能性があるため、パイプを通してガスを抜きます。
息抜きで竹を使うか塩ビ製のパイプを使うかは業者によって異なります。竹は自然に朽ちていきますが、塩ビパイプは自然に朽ちることはないため、井戸があった土地に住宅を建築する際には撤去が必要です。
埋め戻しを行う
井戸に砕石や砂を入れて埋め戻します。井戸の深い部分には砂や砂利を入れ、浅い部分には土状のものを入れてできるだけ井戸を掘る前の状態に戻すのが基本です。
なお、埋め戻しの方法には砂や砕石を使った方法のほかに、セメントを使ってしっかり固め、地盤沈下を防ぐ方法や、ベンナイトを使用して地下水の流れを遮断する方法があります。
どの方法を採用するかは、業者に現地調査をしてもらい、適切な方法を提案してもらうことをおすすめします。
井戸の枠を撤去する
砂や砕石で井戸の地面の高さまで埋め戻したら、井戸の枠の部分を撤去します。井戸枠を残しておくと、地盤沈下のおそれがあるため、取り除かなければなりません。
枠は頑丈につくられていることが多いので、敷地に重機が入る場合は、ミニショベルなどを使用して撤去するのが一般的です。枠の撤去と埋め戻しは、業者によって手順が異なり、埋め戻し作業と枠の撤去が前後するケースもあります。
整地する
枠を撤去したら、井戸があった場所とその周辺を整地し、掃除をして完了です。通常、井戸があった場所には、息抜き用のパイプを刺したままにしておきます。パイプを残しておくのはガス抜きのほか、井戸があった場所が分かるようにするためです。
その後建物を建築したり外構設備を設置する際にパイプは取り除きますが、特にその後の土地の活用方法が決まっていない場合は、適切な時期に解体工事業者に取り除いてもらうよう、依頼しておきます。
井戸を埋める際にかかる費用

井戸を埋め戻し、解体するにはどれくらいの費用がかかるのでしょうか。井戸の解体工事費用は井戸を単体で解体するのか、家屋と一緒に解体するのかどうかで大きく変わります。
井戸のみを埋める場合
同時に建物を解体せず、井戸のみを埋め戻して解体する場合の費用は、約10万円が目安です。ただ、井戸の大きさや埋め戻しの材料、重機使用の有無などにより、5万円程度で済む場合もあれば20万円ほどかかる場合もあります。
業者によって見積額に差がでる可能性があるため、井戸の解体を検討している場合は、複数の解体工事業者に現地調査を依頼し、相見積もりをとるようにしましょう。
家屋の解体工事と同時に井戸を埋める場合
建物の解体工事と同時に井戸を解体する場合、井戸の解体費用は約3〜5万円が相場です。井戸を単体で解体するよりも費用を抑えられる理由は、住宅の解体工事で発生した砕石を井戸の埋め戻しに利用できるためです。
解体工事では作業の途中で住宅の下から井戸が出てきた、ということもあります。この場合、井戸の解体費用が追加工事費用として請求されますが、その際の費用も3〜5万円になるケースが多いようです。
井戸を埋める際にお祓いは必要?

井戸はかつては人々の暮らしに欠かせない、水を提供する場所として神聖視されてきました。そのため、多くのケースで解体前にお祓いを行います。
しかし、お祓いは必ず行わなければならないのでしょうか。ここでは、お祓いの必要性について解説します。
お祓いの要否に注意
井戸のお祓いは信仰や地方の風習で行うため、必ずしも必要というわけではありません。
お祓いは水の神様に対してこれまでの感謝を伝える儀式ですが、施主の信仰心や気持ちによるものが大きいため、行わない方もいます。地域の風習に合わせて行うかどうか、どのように行うか決めるとよいでしょう。
一方で、息抜きは「神様が外に出られるように」という信仰の意味で行うという考え方もありますが、地中のガスや湿気を逃すために実施するので、息抜きは省略できません。
お祓いに必要な費用
井戸解体のお祓い費用は神社によって異なりますが、初穂料、出張費、お供え物などで5~7万円ほどかかると考えておきましょう。
内訳は、以下が目安です。
- 初穂料・玉串料:2~5万円
- 出張費:1万円
- お供え物等:5,000円~1万円
お供え物は基本的に施主が用意します。
事前に神主に聞いておけば詳しく教えてくれますが、一般的には以下のようなものを用意します。
- 清酒
- 塩
- 精米
- 水
- 乾物・果物・魚など
井戸を埋める際の注意点

井戸を埋め戻す際にはいくつか注意しておきたいことがあります。土地活用や手続きで必要なこともあれば、貴重な資源を守るために必要なこともあります。
水資源の保全に務める
井戸の解体工事では、埋め戻しにより水源に悪影響を及ぼさないよう配慮する必要があります。水源は地下でつながっているため、どこに影響がでるか分かりません。
近所に井戸を使っている家庭がある場合、その井戸の水に影響が出てしまう可能性も否定できないでしょう。
周辺の水資源に悪影響を与えないためには、埋め戻しに使用する資材は適切なものを選ぶ必要があります。「うちはもう使わないから」と安易に考えず、経験豊富な業者に依頼してプロの知識で正しく埋め戻しを行うことが大切です。
地下構造物の確認
井戸を解体するときに、井戸の周辺に地下構造物が埋設されている可能性があるため、事前に十分な確認が必要です。
通常、解体工事では地下に埋設されているものは撤去するのが基本ですが、地下躯体や基礎杭などの構造物は、撤去すると地盤が変化するおそれがあるため、慎重に判断しなければなりません。
また、井戸のみを撤去する場合に、ライフラインの配管などの構造物が井戸近くにある場合は傷つけないように細心の注意を払って作業します。
地中埋設物の確認
解体工事では地中に古い浄化槽などの埋設物が残っていないか確認し、残っている場合は撤去しなければなりません。
とくに土地の売却を検討している場合、埋設物を残したままだと売却価格に悪影響を及ぼすおそれがあります。古い土地では、前の家を解体したときの廃材を地中に埋めてしまっていることがあります。
それがたとえ自分が埋めたものでなくても撤去しなければならず、解体作業の途中で見つかった場合は追加費用がかかるため注意が必要です。
古い土地で解体工事を行う場合は、予算の一部を予備費としてとっておき、追加工事が発生した場合に対応できるようにしておきましょう。
井戸の位置・構造・水質の情報を残しておく
井戸を撤去する際には、井戸の情報を記録しておきましょう。土地を売却する際、かつて井戸が存在していた場合にはその旨を重要事項説明書や売主物件状況確認書(告知書)に記載しなければなりません。
たとえ井戸を完全に撤去していても、買主は地盤沈下のリスクなどを気にするケースもあるため、情報を正確に伝えておく必要があります。
このような情報を故意または過失により伝えていないと、売買契約後に買主が損害を受けた場合に契約不適合責任を問われることもあります。売却予定の土地に井戸や浄化槽などが地中にあった場合は、トラブルを避けるためにもその情報を書類に明記しましょう。
井戸廃止届が必要な自治体がある
井戸を埋め戻す際に、井戸廃止届の提出が義務付けられている自治体があるため、事前に確認が必要です。
廃止届は各自治体の環境課や水道課などの担当部署に必要事項を記入して提出します。提出したら自治体の指示に従って井戸を廃止し、廃止が完了したら自治体に報告するのが一般的な流れです。
具体的な手続きは自治体により異なるので、分からないことは事前に担当窓口に質問しておくと安心です。
自治体は、地下水の利用状況を把握し、適切に管理しています。地域の水資源を守るためにも届け出は忘れないようにしましょう。
井戸を埋める前に考慮したいこと

井戸は昔から人々に生活用水を提供してきた大切なものです。しかし戦後は急速に水道が普及したため、井戸を解体する家庭も多くありました。
しかし、近年では災害時に上水道が復旧するまでの生活用水に活用しようと、井戸を残そうと考える方も増えています。
ここでは、井戸を埋め戻す前に考えておきたいことを解説します。
解体の必要性があるのか
解体業者に依頼する前に、本当に井戸を解体する必要があるのか考えてみましょう。井戸水があれば、非常時でも生活用水を確保できます。さらに、地下から直接水を汲み上げるため、水道代の節約にもなります。
一方で、井戸水は定期的な水質検査を求められる点、電動ポンプを使用している場合は電気代がかかる点には注意が必要です。そのほか、井戸水にマンガンや鉄などが多く含まれている場合、洗濯に使うと洗濯物が変色してしまう可能性があります。
井戸水を生活で活用できそうか、コストはどれくらいかかるのかを比較して解体を検討することが大切です。
生活用水以外の活用法も考える
井戸水が水質検査により、飲用できない場合もあります。この場合は、それ以外の活用方法はないか検討しましょう。
代表的なものが庭の野菜や花の水やりです。そもそも井戸水は農業用水として活用されてきたので、庭の植物の水やりには最適です。とくに畑や花壇が広い場合、井戸水を使用すれば、水道代を節約できるでしょう。
また、防災井戸としての活用方法もあります。飲用はできなくても、トイレや清掃などで活用できます。なお、井戸水をお風呂のお湯として活用するのは、雑菌繁殖の原因となるためおすすめできません。
井戸を埋める理由と放置リスク

使わない井戸は放置したままではいけないのでしょうか。解体費用もかかるのでそのままにしておきたという方もいるかもしれません。
ここでは、井戸を埋め戻したほうがよい理由や放置したことで高まるリスクについて解説します。
井戸を放置すると起こりうる事故・トラブル
使わない井戸を放置したままにすると、さまざまなトラブルを引き起こすおそれがあります。放置された井戸は悪臭のもととなり、汚泥が地下水の水質悪化の原因になることもあります。また、転落のリスクも伴うため、危険です。
自治体によっては古井戸の放置が、環境汚染の面で問題視されるケースもあります。地域のルールに基づいて埋め戻し工事をするなど、安全を確保するようにしましょう。
地盤沈下や崩落の危険性
井戸を放置していると地盤沈下や崩落のリスクがあり、危険です。地下の井戸の中は空洞になっている状態です。地下にある空間がそのままにされていると、地盤が不安定になり、崩壊や地盤沈下する可能性が高まります。
そのため、古い井戸は適切に埋め戻しを行い、地盤の安定化をはからなければなりません。埋め戻しに使用する材料には土、砂、再生コンクリート砂、セメントミルクなどがありますが、地盤の性質によって見極める必要があります。
不動産売却や建築時の支障
井戸がある土地は、心理的な抵抗感などから買い手がつきにくい傾向があります。そのため、井戸がある土地を売却する際は井戸を埋め戻しするのが一般的です。
上でもご紹介しましたが、井戸を完全に撤去したあとも、重要事項説明書や売主物件状況確認書(告知書)で買主に情報を開示する必要があります。
売却を検討している際は、不動産会社に井戸の深さ、構造、水質などの情報を共有するほか、埋め戻し報告書や写真があると、評価をしやすくなるでしょう。
まとめ

古い井戸は使わない場合は放置せず、適切に撤去する必要があります。井戸水の水質や利用方法によっては、井戸を残すことを検討してもよいでしょう。
撤去する場合は井戸の情報をしっかりと記録に残し、必要に応じて自治体に届け出なければなりません。
また、埋め戻し作業はDIYでは非常に危険なため、専門業者に任せるようにしてください。
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