一戸建てのアスベスト対策|含有建材の見分け方と解体時のポイント

一戸建てのアスベスト対策|含有建材の見分け方と解体時のポイント

かつて建設材料に広く活用されてきたアスベストですが、現在では使用が禁止されています。

さらに解体・改修工事を行う際には事前調査を実施し、アスベストが含まれていることが分かった場合は厳格なルールのもと処理が必要です。

では、どのような住宅にアスベストが使用されているのでしょうか。今回は、住宅でアスベストが使用されている可能性がある場所やどのような住宅に使用されているか、解体の流れなどについて解説します。

目次

一戸建てでアスベストが使用されている可能性のある場所

一戸建てでアスベストが使用されている可能性のある場所

アスベストは2006年9月以前に建築または改修された住宅の建材に使用されている可能性があります。

まずは、戸建て住宅で使用されている可能性がある場所と、建材の種類を紹介します。

屋根や天井・軒天

屋根はスレート材にアスベストが含有しているリスクがあります。スレートはセメントに繊維を加え5mm程度の厚さに成形した屋根材です。このスレートの耐久性と耐火性、断熱性の効果を高める目的で1930年代~2004年にかけてアスベストが混ぜられています。

軒天とは、外壁から突き出た屋根の裏側にある天井部分のことです。1952~2004年に不燃材料として製造され軒天に使用されていた、石綿含有スレートボード、フレキシブル板が該当します。

また、主に1970~80年代の建物の天井内部に使用されていた、吹き付けアスベスト、ロックウール吸音板、石膏ボード、バーミキュライトなどにもアスベストが使用されています。

参考:⽯綿含有建築材料|環境省

内壁・外壁

住宅の内装仕上げ材にはさまざまな種類がありますが、内壁との代表的なものとしては1931~2004年に製造されていたスレートボードや1965~1988年頃に施工されたじゅらく壁にアスベストが混入している可能性があります。

外壁では耐火被覆材として吹き付けアスベストが使用されていました。リシン、タイル、スタッコなどの仕上げ材のほか、下地材のフィラーにも使用されていた例もあります。

それだけでなく1970年代~2004年頃まで製造されていた窯業系サイディングにもアスベストが含有している可能性もあるため注意が必要です。

参考:石綿の事前調査結果の報告制度|環境省

アスベストが含まれる床材には、ビニル床タイル、ビニル床シート、フリーアクセスフロア材(OAフロア)があります。

ビニル床タイルは塩化ビニル樹脂を主原料にして、充填剤などを配合して成形した正方形の床材です。耐久性と防水性に優れており、商業施設や病院、学校、オフィスなどで使用されてきました。1960年代~1990年代初頭までの製品はアスベストが含まれている可能性が高いといえます。

ビニル床シートはロール状に成形したもの、フリーアクセスフロアは二重床とも呼ばれる躯体上に空間を設けられるように設計された床で、昭和30年代後半から電算室や半導体製造工場の床用などで使用されてきました。

ベランダ・仕切り板

ベランダの仕切り板や擁壁、手すり下地に使用されているのは、軽量で防火性能と耐風圧を兼ね備えたフレキシブルボードです。パルプにガラス繊維を混ぜ、高圧プレスで板状に成形します。

厚さは4~9mmで薄いだけでなく、曲げに強く柔軟性が高いという特徴を持っています。

1952~2004年に製造されていたフレキシブルボードは補強繊維としてアスベストが含まれている可能性があります。

保温材

アスベスト保温材は、1955年頃~2006年まで使用された素材です。主に化学プラント、ボイラー本体、配管、煙突、暖房機器のような高温設備で、保温・断熱材として使用されてきました。

アスベスト保温材は500~800℃でも燃えない高い耐火性・防火性があり、微細な空気層を持つことによる優れた保温性、さらに腐食に強い耐久性を持つ素材です。そのため、保温材に留まらず断熱材や吹き付けにも広く使用されていました。

そもそもアスベストとは?

そもそもアスベストとは?

アスベストが何に使用されてきたかについて紹介してきましたが、そもそもアスベストとはどのような素材なのでしょうか。

ここではアスベストが取り入れられた背景から規制までの流れを整理します。

耐熱性や防火性に優れた建材

アスベストとは、石綿(いしわた、せきめん)とも呼ばれる天然の繊維状の鉱物です。

繊維が極めて細いため、熱や摩耗、酸、アルカリに強く、丈夫で変化しにくい反面、ほかの物質と混ざりやすく、しなやかで糸や布に織り込めるという特性を持っていることから、建設材料や摩耗材などに広く活用されてきました。

耐久性、耐火性、防火性、断熱性、防音性に優れていることから、工業製品に広く活用され、アスベストの使用量の8割が建築材料で占められていたと言われています。

アスベスト規制の理由と変遷

アスベストはかつて「魔法の鉱物」と呼ばれ、日本では年間30万トン程度輸入していた時期がありました。

しかし、1972年にWHO(世界保健機関)やILO(国際労働機関)がアスベストの発がん性を認めたことにより、規制が強化されました。健康被害への懸念から、国内でも1960年に「じん肺法」が施行され、全面禁止へと方針転換されたのです。

アスベスト禁止までの流れは以下の通りです。

  • 1975年:5%を超える石綿の吹き付けが原則禁止
  • 1995年:1%を超える石綿の吹き付けが原則禁止
  • 2004年:1%を超える石綿含有建材等、10品目の製造等禁止
  • 2006年:0.1%を超える石綿含有製品の使用禁止(一部、猶予措置あり)
  • 2012年:石綿含有製品の完全使用禁止(猶予期間終了)

アスベストによって起こりうる健康被害

アスベストを吸い込むことによって発生するリスクがある疾病は以下のようなものです。労働基準監督署に業務上疾病と認定されると治療に労災保険が適用されます。

石綿肺(じん肺)

アスベストを長期間大量に吸い込んだ結果、肺の組織が硬くなり、呼吸しにくくなる病気です。職業上10年以上アスベスト粉じんを吸入した労働者に起こりやすいと言われています。

肺がん

アスベストが原因の肺がんは、繊維が肺細胞を刺激することで発生します。ばく露量が多いほど肺がんリスクが高いことが知られています。

悪性中皮腫

悪性中皮腫は、肺を包む胸膜などに発生する悪性腫瘍です。若い時に吸い込んだ人にリスクがあるとされています。

一戸建てでアスベストが使用されているとどうなる?

一戸建てでアスベストが使用されているとどうなる?

戸建て住宅の建材にアスベストが使用されていることが分かった場合、どのような影響があるのでしょうか。

ここでは、解体工事やリフォーム、売却など、さまざまな面からアスベストの影響を紹介します。

すぐに健康被害があるわけではない

アスベストを吸い込んだからといって、すぐに健康被害が起こるわけではありませんが注意が必要です。

アスベストによる健康被害は、アスベストを吸ってから長い年月を経てから発生すると考えられています。たとえば中皮腫の発病は平均35年前後の潜伏期間を経て現れることが多いと言われています。

アスベストを吸い込んだ量と肺がん、悪性中皮腫の発病には相関関係が認められています。しかし、短期間に低濃度ばく露した場合の危険性はまだ不明であり、現在ではどれくらいのアスベストを吸い込むと発病のリスクがあるかということは分かっていません。

リフォーム・塗装工事でも対策が必要になる

解体工事前だけでなく、リフォーム工事前にはアスベストの事前調査結果を行政へ報告することが義務付けられています。

事前調査は建築物石綿含有建材調査者などの一定の資格を取得する者が実施し、事前調査の結果は記録を作成して3年間保管しなければなりません。

解体工事・リフォーム工事ではアスベスト飛散防止のために周囲を養生し、廃棄物も密閉して処理場へ運ぶ必要があります。

一方、アスベスト入りの建材に外壁塗装をするだけなら、アスベストの飛散リスクは発生しません。

したがってそのまま塗装できます。ただし、外壁材が劣化して交換工事をする際にはルールに基づいて事前調査し、解体・撤去しなければなりません。

参考:建築物の改修・リフォーム|労働厚生省

解体工事の際に費用が高くなる

アスベスト含有建材が含まれる建物の解体工事は、通常の解体工事よりも高額になります。

解体費用の目安は、国土交通省の資料によると処理面積別に以下の通りです。

  • 300㎡以下:2~8.5万円/㎡
  • 300~1000㎡:1.5~4.5万円/㎡
  • 1000㎡以上:1~3万円/㎡

アスベストが建材に含まれていた場合、飛散防止・隔離対策、除去費用、廃棄物処分費などがかかります。

そのため、30坪の木造一戸建ての通常の解体工事の総額が約80~120万円が目安であるのに対し、アスベスト建材が使用されている住宅では約100~300万円以上にのぼるケースもあります。

参考:アスベスト対策Q&A|国土交通省

売却時に価格の下がるリスクがある

アスベストが含まれる不動産は、買い手が見つかりにくくなり、価格が下がる傾向があります。

これは、買主がリスクを考慮して購入をためらうことや、解体やリフォームの際に除去費用が発生するので、買主から大幅な価格交渉をされたり調査費用負担の要求を受けたりすることが理由です。

売却の際は事前調査を実施し調査結果を重要事項説明書に記載したうえで、値下げ交渉も念頭に置いて買主を探します。

または、相場より2~3割安い価格になったとしても、不動産業者に売却すれば、手間やトラブルを避けられます。

アスベストが含まれた住宅を見分け方

アスベストが含まれた住宅を見分け方

アスベストが含まれている住宅はどのように見分ければよいのでしょうか。基本的には専門家による調査が必要ですが、建築時期からある程度推測することも可能です。

アスベストが使用されていた時期に建てられた住宅を解体・改修工事するときは、使用されていることを想定して調査を依頼しましょう。

建築時期

アスベストの住宅への使用は1960年代~1980年代半ばが高リスクで、特に1975年以前の建物は注意が必要です。

1960年代~1980年代半ばは、断熱・耐火・防音目的で住宅の建材として利用されていました。特に、1960年代~1970年代は、吹き付けアスベストが多用されていた時期なので注意が必要です。

1995年以降は規制が強化されていますが、1%未満含有している建材や、クリソタイルなど禁止されていない種類の建材が使用されている可能性があります。

2006年9月以降は原則としてアスベスト含有建材は使用されていませんので、着工日を確認しておくとよいでしょう。

使用している外壁(屋根)材

戸建て住宅で使用しているアスベスト含有建材の中でも使用面積が多いのが外壁材と屋根材です。

外壁材では窯業系サイディングや吹き付け塗装材などにアスベストが含有している可能性があります。屋根材では、スレート材、軒天に使用されている石綿含有スレートボード、フレキシブル板にアスベスト含有リスクがあります。

それだけでなく、床材や内装材、配管の保温材などあらゆる場所でアスベストが使用されていたため、建物全体をしっかり調査しなければなりません。

専門業者への調査依頼

解体やリフォーム前のアスベストの事前調査は、建築物石綿含有建材調査者などの専門家が行わなければなりません。

工事を依頼した解体工事業者や工務店に有資格者が在籍していれば、その業者が事前調査を行いますが、在籍していない場合には業者と提携しているアスベスト会社に依頼して実施します。

目視でアスベスト含有の有無が判断できない場合は分析調査を行う必要があります。

また、条件によっては調査結果を自治体に報告しなければならないため、自分で判断せず、専門業者に依頼するようにしましょう。

一戸建てを解体するときの流れ

一戸建てを解体するときの流れ

ここでは、アスベストを使用した戸建て住宅の解体工事の工程を紹介します。

解体工事は事前調査を含め、業者が実施してくれますが、発注者にも安全にアスベストを処理する責任があるため、流れを把握しておきましょう。

有資格者に事前調査の依頼をする

建物の解体工事では、建築物石綿含有建材調査者などの有資格者がアスベスト含有建材の有無を調査する必要があります。

そのため、解体業者に有資格者が在籍している、または専門会社と提携している業者に依頼する必要があります。

住宅が2006年9月以前に建築されている場合は建材にアスベストが含まれている可能性があるため、業者が経験豊富かどうか確認するために施工事例をチェックしたり、事前に問い合わせておくと安心です。

調査・見積もりを行う

調査は、住宅の設計図書や改修履歴などの書面の確認から始まり、実際に建材を確認する目視調査へと進むのが一般的です。目視で確認できない場合は、建材の一部を採取し、分析調査機関に送付して石綿の有無を確認します。

アスベストの含有が認められたら作業計画書を作成し、作業開始14日前までに労働基準監督署や自治体へ届出を行います。

同時に工事の見積もりを行います。アスベストの解体費用は発じん性の高さで3つのレベルに分けられており、最も危険なレベル1は作業費が高額です。

解体工事を行う

アスベストが存在する場合の解体工事は、現場をアスベストの飛散を防ぐためにプラスチックシート等で養生・隔離します。レベル1~2の解体作業では、粉じんマスクと専用の保護衣を着用して作業しなければなりません。

解体の工程では、作業環境下で粉じんの飛散を防ぐため、湿潤状態を保ち、手作業で解体します。

除去した建材は、専用の二重袋に密封して厳重に梱包し、レベル1~2のアスベスト建材は特別管理産業廃棄物のうち廃石綿等として、レベル3のアスベスト建材は石綿含有産業廃棄物として処理します。

一戸建てのアスベスト使用に関するよくある質問

一戸建てのアスベスト使用に関するよくある質問

ここでは、アスベスト建材が使用された戸建て住宅の解体に関してよくある質問とその回答を紹介します。

2006年以前に建築またはリフォームした住宅は以下を参考にしておき、法令に基づいて解体工事を進めましょう。

アスベスト調査の義務があるのは誰?

アスベストの事前調査の実施については、主に元請業者(受注した施工会社)に法的義務がありますが、住宅の所有者にも一定の役割があります。

解体工事・リフォーム工事を実施する施工業者はアスベスト事前調査の実施義務を負い、調査結果を発注者(建物の所有者)に説明しなければなりません。

また、一定規模以上の工事を実施するときは調査結果を都道府県知事に報告する必要があります。

発注者は、調査に必要な図面やリフォーム記録などの資料を提供し、調査がスムーズに進むように協力しなければなりません。また、調査費用は施主が負担するのが原則です。

事前調査をせずに解体するとどうなる?

アスベストの事前調査を怠った場合または虚偽の報告を行った場合、罰則の対象となります。

罰則は大気汚染防止法と石綿障害予防規則の2つの法律で以下のように定められています。

大気汚染防止法

事前調査結果の報告を怠った場合、30万円以下の罰金の対象

参考:大気汚染防止法 第三十四条

石綿障害予防規則

事前調査を行わずに解体作業を行った場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金の対象

参考:石綿障害予防規則

罰則は元請業者が対象ですが、調査に協力しないなど特定のケースでは発注者が責任を問われる可能性も否定できないため、注意が必要です。

アスベストが使用された建物の解体費用に補助金はある?

アスベストを含む建物を解体する場合、補助金の利用が可能です。補助金はアスベストの調査費用と除去費用の2種類があります。

アスベストの調査や除去には専門知識と技術、安全管理の徹底が必要なため、費用が高額になります。その場合に施主の負担を軽減するために、各自治体が補助金制度を設けています。

支給額と内容、条件、申請方法は自治体により異なり、調査・除去の一部費用または全額が支給されます。

解体工事を検討している場合は事前に自治体のウェブサイトまたは窓口で確認しておくと安心です。

まとめ

かつて広く活用されてきたアスベストは、現在でも多くの建物に使用されている可能性があります。

解体工事やリフォーム工事では事前調査が必須となりますので、不安な場合は事前に業者に問い合わせておきましょう。

また、見積書が発行されたら、調査費用についてその明細が記載されているかもチェックが必要です。

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