
もし、家屋が火災に遭ってしまった場合、被害の状況に応じて建物を解体またはリフォームする必要性が出てきます。このとき家屋に残された燃え殻やゴミ、残置物を処分しなければなりませんが、これらはどのような扱いになるのでしょうか。
今回は、火災後の解体工事で発生する廃棄物の取り扱い方や費用相場について解説します。
火事後の解体で発生する産業廃棄物とは

火災後の解体現場で発生する産業廃棄物とはどのようなものなのでしょうか。ここでは産業廃棄物の種類や火災ごみとの違い、注意点など、火災に遭った建物の解体工事の基礎知識を紹介します。
火事で焼けた建物の廃材は産業廃棄物に該当する
火事があった建物の解体工事で出る廃材は、解体作業が事業活動に該当するため、原則として産業廃棄物扱いになります。
産業廃棄物は事業活動に伴って排出される廃棄物のうち、法律で定められた20種類を指します。解体業者が火事のあった住宅を解体する場合、産業廃棄物として業者がマニフェストで管理し、処理責任を負わなければなりません。
一方、現場の燃え殻やごみを自分で処理する場合には一般廃棄物扱いになり、自治体の管理下で処理されます。
火災解体で発生する主な産業廃棄物の種類
火災現場では以下のような産業廃棄物が発生します。解体業者はこれらを種類ごとに分類して処理施設へ運搬しなければなりません。
損傷した木材の炭化物・焼失した建材
埋立・特別管理産業廃棄物として処理
木材など
焼却またはチップ化して再利用
コンクリート片・瓦・レンガ
破砕・分離処理後、埋立または路盤材等に再利用
焼けた鉄骨、アルミサッシ、家電の金属部分
選別後金属工場でリサイクル
割れたガラス・陶器類
破砕後埋立または路盤材等に再利用
溶けたり焦げたりした家具・家電のプラスチック部品など
焼却・埋立処分またはリサイクル
産業廃棄物と火災ごみの違い
火事現場で、損傷した建物から発生する廃棄物全般を火災ごみと呼びます。火災ごみは主に家具や建具、衣服、布団など、家財道具が燃え残ったものです。火災ごみは火事に遭った時点で発生し、原則として一般廃棄物に分類されます。
これらの火災ごみのうち、解体工事業者による建物の解体に伴って発生したごみは、産業廃棄物となります。
特に燃え殻は、建築資材に含まれる成分が燃焼することにより有害物質発生の恐れがあることから産業廃棄物に指定されており、適切な処理をしなければなりません。
通常の解体工事との違い
通常の解体工事と火事現場の解体工事とでは、安全性や廃棄物の分別の手間などが異なります。
火災に遭った建物は構造が弱くなっているため、少しの衝撃で崩れる可能性があります。そのため、解体は慎重に行わなければなりません。
また、通常の解体工事では、発生した廃棄物の中にリサイクルできるものがあればリサイクルに回します。
一方、火事現場では建材と家財が混在し焼け焦げているため、分別が困難です。リサイクルも難しいため、処理費用も高額になる傾向があります。
危険物・有害物が含まれる可能性
火災後の解体現場は、危険物や有害物質に注意して作業しなければなりません。
危険物・有害物の代表例として、建材にアスベストが使用されている場合が挙げられます。
解体作業で飛散したアスベストを吸い込むと深刻な病気を引き起こします。そのため、解体前にはアスベストの有無をチェックしたうえで、近隣住民に影響がないように廃棄しなければなりません。
そのほか、プラスチックが不完全燃焼すると、ダイオキシンが発生することがあるので、ダイオキシン濃度を計測したうえで解体作業を行います。
火事にあった際にするべきこととは?

火災の被害に遭った際は、解体工事を手配する前にいくつかの手続きをしなければなりません。
順番を間違えると保険がおりない可能性もあるので、順序を把握しておきましょう。
罹災証明書の取得
火災後の解体工事では、罹災証明書の取得が必須です。罹災証明書とは、火災で住んでいた住居が受けた被害の程度を、市町村長が公的に証明する書類です。
罹災証明書は生活再建支援金、税の減免などを受ける際に必要となり、申請に基づいて市町村が現地調査または写真判定を行い、発行します。
火災の場合は所轄の消防署に申請すると交付を受けられます。申請方法や窓口は自治体によって異なるので、事前に確認しておくと安心です。
保険会社へ連絡
罹災証明書が発行されたら保険会社に連絡します。契約者名、証券番号、火災発生日時と場所、損害の状況をあらかじめメモしておくとスムーズです。保険金支払いの対象となる保険や必要書類、今後の流れについて説明してもらえます。
その後、保険会社が現場で損害状況を確認します。立ち合いを求められることもあるので、事前に確認しておきましょう。
重要なのは保険会社に連絡する前に解体工事に着手しないことです。解体作業を始めてしまうと、保険会社が正確な損害状況を把握できず、保険金が支払われなかったり減額される可能性があります。
また、罹災証明書がなければ保険会社への申請手続きができませんので、順番を間違えないようにしてください。
解体工事業者の手配
保険会社の調査が完了し、解体工事に着手しても良いという許可が出たら解体業者に見積もりを依頼します。
このとき、複数の業者から相見積もりを取ることをおすすめします。火事の被害に遭った建物の解体工事は残存物の撤去も作業に含まれます。また現場は危険なため、経験豊富な業者に依頼した方が安心です。
3社程度から見積もりを取り、費用面だけでなく、安全で丁寧な作業を行う、コミュニケーションを円滑に取れるなど、総合的に判断して良いと思った業者に決めましょう。
見積書は保険会社に提出して保険金の請求を行います。
火事による解体費用の相場

火事現場の解体工事はどれくらいの費用がかかるのでしょうか。
ここでは解体工事の費用の目安や、解体作業以外でかかる費用を整理しているので、かかるコストを把握するための参考にしてください。
火災解体の費用相場
火災現場の解体費用の相場は以下の通りです。費用は建物の構造によって変わります。
- 木造:約3.1~4.4万円/坪
- 鉄骨造:約3.4万円~4.7万円/坪
- RC造:約3.5万円~8万円/坪
火災に遭った建物は残置物などが残されているうえ、燃え殻になったものとそうでないものが混在しており、廃棄物の分別に時間と手間がかかります。
さらに、構造が脆くなっている可能性もあり、慎重に作業を進めなければならないため、人件費が余分にかかる傾向があります。
産業廃棄物の処分費用
産業廃棄物の処分費用は解体費用全体のおよそ40%を占めると言われています。
理由は、木材などの資材はリサイクルできず燃え殻として処理しなければならないので、費用が通常よりも高くなるためです。
処分費用は火災の規模によって大きく変わり、以下の通りです。
- 家具・家電が中心の軽度の被害:約10~50万円
- 部分解体を含む中規模の被害:約50~200万円
- 全面解体が必要な全焼・全壊規模の場合:約300~500万円以上
廃棄物の処分に際してダイオキシンなどの有害物質の調査を行わなければならず、処分費用が高額になってしまう点には注意が必要です。
廃棄物処理以外の費用も確認する
解体工事では、解体作業費と廃棄物処分費用のほかにも以下のような費用がかかります。
- 仮設工事費用
- 整地費用
- 必要諸経費
仮設工事費用とは、足場の設置・撤去費用です。建物の解体工事は高所作業を伴うため、足場での作業が必要になります。さらに、粉じんの飛散防止のために養生シートで現場を囲わなければなりません。
解体後の土地を次の用途に使用できるように整える必要がある場合には、整地費用がかかります。
工事車両の駐車料金や水道代、重機回送費などの諸経費がかかります。これらの費用が見積書に詳細に記載されているか、確認してから契約に進むようにしてください。
自己負担を減らすための方法

火災により損壊した住宅の解体費用は高額になる傾向があります。解体費用を抑えるためには、火災保険を活用する以外にもいくつかの方法があるので、負担を軽減するために検討してみましょう。
自治体の補助金を確認する
自治体では火災で被害を受けた住宅や土地に対して、いくつかの補助金制度を用意しています。利用には罹災証明書が必要なので、必ず用意しましょう。
一般廃棄物の処理手数料の減免
火災によって発生した廃棄物の処理手数料の免除制度です。制度を利用するためには一般廃棄物として市町村が指定する処理施設に持ち込まなければなりません。
災害見舞金制度(生活再生支援金)
火災などで住居が深刻な被害を受けた場合に支給される見舞金です。支給額は災害の種類や被害の大きさによって変わります。
被災者生活再建支援制度
災害後の生活を再建させるための支援制度です。住まいの修復、生活必需品の購入、移住の支援に使用でき、支給金額は被害の程度によって異なります。
解体せずに売却する
今後その土地に住む予定がない場合は、解体せずに売却してしまうのも一つの方法です。
この場合、建物には評価額が付かず、土地のみの値段で売却することになりますが、解体工事は土地を買い取った人が依頼するため、解体費用を負担せずに済みます。
今後長期的に土地をどのように活用するのかよく考えて、解体して土地を使うのか、売却して負担を減らすのか、決断するようにしてください。
火事による解体業者の選び方

火事に遭った住宅の解体工事業者を選ぶ際は、作業が通常の解体工事とは異なる部分も多いため、適した業者を選ぶ必要があります。
以下で紹介するポイントを押さえ、後悔のない工事を依頼しましょう。
火災現場の解体実績
業者は火災現場の解体実績が豊富なところを選びましょう。火災で被害を受けた住宅は燃えた残置物が残っている状態であり、廃棄物の分別と処理、焼けて脆くなった建材の解体など、細心の注意を払う必要があります。
このとき、経験豊富な業者を選んでおくとスムーズに作業が進むだけでなく、トラブルの発生も避けられます。
現場を施工エリアにしている解体業者のウェブサイトを訪問して、地元で長年営業している業者か確認し、火災現場の解体工事の経験があるかメールフォームや電話で問い合わせてみると良いでしょう。
産業廃棄物と一般廃棄物の処理に対応可能か
解体業者が産業廃棄物だけでなく、一般廃棄物の処理も請け負ってくれるか確認しておくと安心です。産業廃棄物と一般廃棄物は処理に関するルールが異なるため、扱いに必要な許可が異なります。
産業廃棄物の処理には「産業廃棄物収集運搬業・処分業許可」が、一般廃棄物の処理には「一般廃棄物収集運搬業・処分業許可」が必要です。
火災現場の解体工事は通常の解体工事とは異なり、一般廃棄物が発生する可能性があります。事前に許可を持っているか、確認しておくと安心です。
必要な許可を取得しているか
解体工事では建設業許可と、上でご紹介した産業廃棄物収集運搬業許可が必要です。事前に業者のウェブサイトで許可を取得しているか確認しておきましょう。
解体工事を行うためには、「建設業の許可」または「解体工事業登録」のどちらかが必要です。
建設業許可は500万円以上の工事や解体工事を含む特定業種で営業する場合に必要な許可です。解体工事業登録は500万円未満の工事を請け負えます。
産業廃棄物収集運搬業許可は、解体作業で発生した廃棄物を元請業者から委託されて運搬する場合に必要な許可です。
解体工事業者に必須の許可ではありませんが、収集運搬許可を取得している業者は信頼性が高いことを示しているので、業者選びの判断材料の一つとしておくとよいでしょう。
保険(損保・労災)に加入済か
業者が請負業者賠償責任保険や労災保険に加入しているかどうかも重要です。建設工事では意図せず隣家のブロックを破損したり車を傷つけてしまったりすることがあります。そのような場合に保険が補償してくれます。
そのほか、業者が労災保険に加入していることも大切です。従業員が事故になった場合も適切な治療と休業補償を得られる体制が整っていることは、工事中の安全対策に直結します。
保険に関して施主は関係ないように思えるかもしれませんが、信頼性の証でもあるので、加入していない業者とは契約しないようにしましょう。
火災後の支援制度に詳しいか
業者が火災後の自治体の支援制度に詳しいかどうかも重要です。
火災後はさまざまな手続きが必要です。施主も精神的な負担を負った状態で手続きを進めなければならないケースも少なくないでしょう。
そのときに、自治体の補助金制度や支援制度について相談に乗ったり提案してくれる業者だと費用を抑えられるだけでなく、手続きもスムーズです。
保険会社がサポートしてくれることもあるかもしれませんが、相談できる窓口は多い方が安心です。
火事にあった建物を解体するときの注意点

火事に遭った建物を解体するときは、通常の解体工事以上に注意しておかなければならないことがあります。次のポイントを押さえておき、スムーズに解体を進めるようにしましょう。
火事直後の解体は避ける
火事直後の解体は、消防・警察の現場検証や火災保険の調査が完了していないだけでなく、二次被害のリスクが高いため、避けましょう。
できるだけ早く片づけたいかもしれませんが、まずは罹災証明書を取得し、保険会社に連絡します。保険会社が被害状況を確認し許可が下りたら、安全を確保して解体作業を始めるのが鉄則です。
保険会社が損害状況を把握する前に解体すると保険金が支払われない可能性があります。
さらに、現場は危険なため、完全に鎮火していることを確認し、ライフラインを完全に停止してからでないと作業できません。
自力での解体は控える
火災に遭った住宅の解体を自分だけで解体・清掃するのはおすすめできません。火事で脆くなった住宅は不安定で倒壊の危険性があります。
さらに、建材に有害物質が含まれている可能性があり、専門知識がないまま処理すると、健康被害を引き起こす恐れがあります。
また、現場周辺をしっかり養生していなければススやホコリが飛散し、近隣住民に迷惑をかけることになるかもしれません。
トラブルを避けるためにも、解体工事の専門業者に依頼するようにしましょう。
アスベストなどの有害物質に注意する
1980年以前に建てられた住宅は、損傷するとアスベストが飛散するおそれがあります。
2022年4月1日から、建物解体を行う施工業者はアスベストが建材に含まれているか事前調査を行い、都道府県等に報告することが義務付けられています。そのため、解体前にアスベストの調査を行わなければなりません。
そのほか、外装材や内装材が燃えたことで有毒ガスが発生している場合があるため、周辺に配慮して適切に処分する必要があります。
近隣への挨拶をしっかりと行う
解体工事前には近隣住民へのあいさつ回りを欠かさないようにしましょう。火災が起こったことで近隣住民は煙の被害を受けたり、不安な思いをした可能性があります。そのような状態の中で解体工事による騒音や粉じん、振動が発生すると、近隣住民にストレスを与えてしまうでしょう。
粉じんが発生する日は洗濯物を外で干すのを控えてもらわなければならない場合もあります。そのため、工事の内容と日程、問い合わせ先を事前にしっかりと伝えておくことが大切です。
あいさつ回りは最低でも両隣、向かい、裏の家には行いましょう。また、工事車両の通行などで迷惑がかかりそうな家にも挨拶し、理解と協力を得ることがトラブル防止のポイントです。
解体業者に任せても責任は消えない
火災事故で損壊した住宅の解体工事を業者に任せていても、元請けである施主の責任が完全に消えることはない点は留意しておきましょう。
施主は安全管理をしっかりと行い、法律に定められたルールに従って解体作業を行う業者を選び、適切に工事が進むように監督する責任があります。不適切な業者を選んだ場合、施主の責任が問われる可能性があります。
そのため、安全対策を徹底し、賠償責任保険に加入している業者を選ぶ必要があります。契約書を交わす際も、内容をよく確認したうえで契約することが大切です。
火事後の解体に関するよくある質問

ここでは、火災後の住宅の解体で出る廃棄物に関して、よくある質問とその回答を紹介します。
廃棄物の処分費用を抑えるために必要な情報もあるので、事前にしっかり押さえておきましょう。
自分で解体したものは産業廃棄物になりますか?
自分で住宅を解体した場合に発生した廃棄物は産業廃棄物ではなく一般廃棄物です。
そのため、基本的に一般廃棄物として市町村指定の処理施設に搬入できます。ただ、自治体によって産業廃棄物とみなされ、許可を取得している産廃業者に処分を依頼しなければならない場合もあるため、事前に担当窓口に確認しておくと確実です。
一般廃棄物の回収と処理は市町村に責任があり、原則として市町村が自ら行います。
火災ごみは自治体で減免制度を受けられる?
火災で発生した一般廃棄物は「り災ごみ」として、多くの自治体で処理手数料減免制度を設けています。
廃棄物処理手数料の減免制度は被災者の経済的損失を和らげる取り組みで、処理費用の一部または全額が免除されます。
自治体により、どれくらい減免を受けられるかや、持ち込み方法が異なるため、確認が必要です。また、申請には罹災証明書が必要なので、まずは罹災証明書の申請を済ませましょう。
まとめ

火災後の解体工事で発生する廃棄物は産業廃棄物として処理されます。廃棄物の量が多く、解体費用も通常の解体工事よりも高額になりやすいため、罹災証明書や保険の手続きの手順を間違えずに行う、利用できる補助金を活用するなどして費用を抑えましょう。
工事を依頼する際は、火災後の解体工事の経験が豊富で、補助制度などについても相談できる業者を選ぶと安心です。

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