
住宅の壁や天井の断熱材として広く採用されているグラスウールですが、安心して使用できる素材なのでしょうか。
結論からいえばグラスウールは人体に影響が少ない安全な素材です。今回は、グラスウールが及ぼす可能性のある影響やアスベスト(石綿)との違いなどについて解説します。
グラスウールの危険性と注意点

グラスウールは安全な素材ですが、一時的に皮膚や呼吸器に不快な症状がでることがあります。
以下にグラスウールが引き起こしやすい影響を挙げるので、対策方法とともに理解しておくと安心です。
皮膚に及ぼす影響
グラスウールの繊維が皮膚に触れると、刺激によりチクチクしたりかゆみを感じることがあります。皮膚が過敏な人は炎症を起こすこともあるでしょう。
これは、グラスウールの細かい繊維が皮膚を刺激するためです。多くの場合、流水などで洗い流してグラスウールを取り除くと解消できます。
このような皮膚への刺激を避けるためには、グラスウールを取り扱うときは長袖、手袋、保護メガネ、帽子などを着用する、保護クリームで皮膚を保護する、などで対策します。
呼吸器への影響
飛散したグラスウールの繊維を大量に吸い込んだ場合、喉や鼻がイガイガするケースがあります。長時間繊維を吸引した場合は気管支炎のような症状を引き起こす可能性もありますが、深刻な疾患に陥るリスクは低いと考えられています。
このような症状への対策は、作業中の防じんマスクの着用や換気の徹底が大切です。
なお、グラスウールはシックハウスの原因物質となるホルムアルデヒドの放散量も極めて少ないため、シックハウスによる呼吸器系の症状は少ないと考えられているので安心してください。
発がん性の可能性
アスベストは天然の結晶性鉱物繊維で、極めて細い繊維の結晶体なので肺の奥深くの肺胞まで到達し、肺胞に突き刺さったまま体内に留まることで、癌などの病気を引き起こします。
一方、グラスウールは体内に入っても、体液で溶けて短期間で体外に排出され身体の奥には到達しにくいため、発がんなどの健康への影響は心配ありません。
また、遊離珪酸も含んでいないので、遊離珪酸粉じんによってリスクが高まる珪肺病についても、グラスウールは心配ないと考えられています。
アスベストと誤解されやすい
グラスウールはアスベストと見た目が似ているため、混同されることがあります。見分け方は、グラスウールは指でこすると細かい粉状に崩れるのに対し、アスベストは粉状になりにくく繊維状のまま残ります。
また、グラスウールはお酢をかけると溶けますが、アスベストはお酢をかけても溶けません。
アスベストは吸入することによる中皮腫や肺がん、アスベスト肺などの重篤な健康被害のリスクがあります。そのため、2006年にアスベスト含有製品の製造、輸入、使用等が原則禁止となっています。
そもそもグラスウールとは?

では、グラスウールとはそもそもどのような素材なのでしょうか。ここでは、グラスウールの特徴や、世界的な市場規模、気になる発がん性リスクなど、基本的な情報を紹介します。
グラスウールの基本的特徴
グラスウールとは、ガラスを高温で溶かし、ミクロン単位の細い繊維にしてできた綿状の素材です。建築現場や家庭などから資源ごみとして出されるリサイクルガラスを主原料としています。
耐熱性や不燃性、耐久性、断熱性、吸音性、防振性に優れているため、建築物のほか、船舶、車両まで、さまざまな分野で使用されています。
建築材料としては、断熱材や吸音材、配管の保温・保冷材として活用されるのが一般的です。
現状のグラスウール使用状況
グラスウール断熱材は市場分析調査会社によれば、今後市場が大幅に成長すると予想されています。成長の要因は建設業界の拡大や自然に優しい建築物の需要の高まりによるものです。
これにより、世界のグラスウール断熱材の市場は2024年から2030年までの年平均成長率が4.5%、2030年までに推定56億ドルに達すると予測されています。
日本国内でも、省エネ住宅など、建物のエネルギー効率向上ニーズの高まりが継続すれば、今後市場は拡大していくでしょう。
参考:グラスウール断熱材市場レポート:2030年までの動向、予測、競合分析
国際がん研究機関(IARC)分類
国際がん研究機関(IARC)による発がん性に関する物質・要因の4分類では、グラスウールはグループ3に分類されています。グループ3は「ヒトに対する発がん性について分類できない」という区分で、人体への長期的影響がきわめて低いというものです。
グラスウールはアスベストに比べて繊維が太いため、体内に吸入されにくく、吸入されたとしても排出されるので体内には残りません。そのため、アスベストが誘発するような肺がんや悪性中皮腫との強い因果関係は見受けられていません。
グラスウール使用時の安全対策

グラスウールは人体に悪影響を及ぼす可能性は非常に低いですが、製品を安全に使用するために取り扱う際にいくつか注意しておきたい点があります。
新築工事や断熱リフォームの施工などで業者が現場で行っているのは以下のような対策です。
保護具の選び方
作業時の保護具は、粉じんが体内に入り込まない、皮膚につかないように対策できるものを選びます。
帽子やヘルメット、保護手袋を着用し、ゴーグルや保護メガネで目に粉じんが入らないような対策が必要です。作業中は粉じんマスクをぴったりと隙間なく、正しく装着しなければなりません。
また、衣服は長袖で袖がしまり、ゆったりしたシャツや長ズボンを着用します。作業後は衣服をよく振り落とし、シャワーを浴びて粉じんを洗い流すことが推奨されています。
作業時の換気の重要性
グラスウール施工時は作業場の換気をすることが重要です。窓や扉を開放する、換気扇を使用するなどして閉塞空間での作業は避けなければなりません。
換気が不十分な空間で作業するとグラスウールの微細な粒子が空中に浮遊し、健康リスクが高まる原因となります。
また、施工時に床にこぼれた場合は粉じんが飛散しないように静かに工業用掃除機などで清掃し、空容器や袋などに詰めて廃棄します。
グラスウールのメリット

断熱材にはいくつかの種類がありますが、グラスウールにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここではコスト面や安全性、耐久性などの面から、グラスウールのメリットを紹介します。
コスト面での優位性
グラスウールは価格が安い点が大きな魅力です。主原料にリサイクルガラスを使用する材料費の安さと、軽量で加工が容易なため、輸送費が抑えられることがその理由です。
同じ繊維系の断熱材にロックウールがありますが、ロックウールは玄武岩などを主原料とするため、ガラスウールに比べて高価になります。
さらに、グラスウールは施工コストが安い点も大きなメリットです。フェルト状またはボード状のグラスウールを壁に埋め込み、それを防水シートで覆うだけで完了します。専用の機械を使って吹き込む必要がないので、施工コストを抑えられます。
吸音性に優れている
グラスウールは内部に空気を多く含んだ繊維質構造のため、吸音性に優れている点もメリットです。このような多孔質の素材に音が衝突すると、内部の空気が振動する際に繊維と摩擦するなどして、音のエネルギーが熱エネルギーに変換され、音が減衰されます。
幅広い音域を吸音できるので、音楽ホールや劇場などでも活用されています。住宅ではグラスウールに遮音性の高い石膏ボードを組み合わせると、室内の遮音能力の向上につながります。
人体への安全性が認められている
上でもご紹介しましたが、グラスウールは安全性の高い製品として認められています。
天然繊維であるアスベストとはまったく異なる原料と工程で製造されている、人工的に作られた繊維であるため、通常の使用環境下ではがんをはじめとする疾病を引き起こす危険性はありません。
原料だけでなく、繊維の大きさも安全性が高い理由です。アスベストの繊維径は1ミクロン(1000分の1mm)で割れやすく肺の奥に吸い込まれて留まり、呼吸器系の病気の原因となります。
一方、グラスウールの繊維径は4〜9ミクロンで繊維を吸い込んでも気管支や鼻で大半が除去され肺に到達できません。万が一体内に入っても体液に溶けやすいため、体内に残ることなく排出されます。
耐火性に優れている
グラスウールはガラスを主原料とするため、燃えにくいのが特徴です。国土交通省が平成12年に告示した「不燃材料を定める件」には、不燃材料としてグラスウールが規定されています。
不燃材料とは、防火材料のなかで最も性能が高く、加熱後20分以上で以下の状態を維持できる材料です。
- 燃焼しない
- 防火上有害な変形、溶融、き裂その他の損傷を生じない
- 避難上有害な煙またはガスを発生しない
グラスウールはこれらの条件を満たしており、万が一の火災の際にも燃えにくく、延焼を防ぎ有毒ガスの発生もありません。
参考:国土交通省告示
経年劣化が起きにくい
経年劣化しにくく安定している点もグラスウールのメリットです。無機質材料でできているので熱や薬品等に強く、耐久性が高いため、長期間性能を維持できます。
無機質素材なのでシロアリに食害されない点も住宅の安全性を保つために役立ちます。発泡プラスチック系断熱材は白アリの食害を受けるので、住宅をシロアリから守るにはグラスウールの断熱材を選ぶとよいでしょう。
ただし、グラスウールは正しく施工されていないと性能を大幅に落とし、短期間での劣化につながります。とくに湿気対策をする、十分な厚みで設置することが大切です。
グラスウールのデメリット

メリットが多いグラスウールですが、デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
以下に代表的なデメリットを挙げるので、注文住宅の建築を計画している場合は施主としても知っておきましょう。
水に弱い
グラスウールは水に弱いというデメリットがあります。グラスウールが水に濡れると繊維の間の空気層が失われ、断熱性能が低下してしまうのです。
一度水に濡れると繊維同士がくっついて空気を溜め込む機能が大幅に低下します。グラスウールが濡れた重みでずれてしまい、気密性が低下するおそれもあるので注意が必要です。
グラスウールが長期間濡れた状態になるとカビが発生したり、住宅の構造体を腐食させたりしかねません。そのため、グラスウールが袋に包まれた状態で施工するか、防水シートの施工が必要です。
施工技術が必要になる
グラスウールは施工する職人が正しい知識と技術を持っていないと、施工不良を引き起こすことがあります。
グラスウールを壁に設置する際は、隙間なく敷き詰めることが断熱効果を最大限に発揮させるポイントです。隙間があるとそこから風や湿気が入り込んでしまい、断熱効果を低下させる原因になります。
湿気に当たるとグラスウールの劣化につながるため、十分な注意が必要です。また、均一な厚みで設置しないと断熱効果を一定に保てません。
近年ではグラスウールの普及により、知識不足による施工不良はほとんど見られなくなりましたが、優良業者に任せるに越したことはありません。地域で長年運営している業者など、信頼のおける業者に依頼してリスクを最小限に抑えましょう。
グラスウールに関するよくある質問

ここでは、グラスウールに関してよくある質問とその解答を紹介します。
グラスウール断熱材を新築に施工する場合だけでなく、グラスウール断熱材が使用された住宅を解体する場合やDIYでグラスウールを取り扱いたい場合に役立つ知識なので、チェックしておきましょう。
グラスウールのチクチクの取り方は?
グラスウールが肌に触れてチクチクする場合は、刺激のない石鹸を使い、温水で洗い流してください。刺激を感じても強くこすらないことが大切です。こすることでガラス繊維が皮膚の内部に入ってしまい、炎症を引き起こすことがあります。
グラスウールを取り扱ったことによるチクチクした感覚はガラス繊維の物理的な刺激であり、人体への毒性はありません。皮膚の炎症が長く続く場合は医療機関に相談しましょう。
目に入った場合も目をこすってはいけません。異物感がなくなるまで清潔な水で洗浄し、医師の手当て、診断を受けてください。
グラスウールを吸い込んだときの症状は?
グラスウールの繊維を大量に吸い込んだ場合、喉や鼻がイガイガしたような刺激を受けることがあります。
長時間繊維を吸引し続けた場合は気管支炎のような症状が現れることがありますが、一般的な工事の施工では深刻な症状に発展する可能性は低いと考えられています。
注意点は湿気などによりグラスウールにカビが発生した場合です。カビの胞子が室内に放出されると、アレルギー症状や喘息などを発症するリスクが高まります。
グラスウールに結露を引き起こさないように、正しく施工することが大切です。
グラスウールの代替断熱材は?
グラスウールの代わりとなる断熱材の素材には以下のようなものがあります。
- ロックウール
- セルロースファイバー
- ウールブレス(羊毛)
- 炭化コルク
- ポリスチレンフォーム
- 硬質ウレタンフォーム
- フェノールフォーム
などがあります。
それぞれ施工方法、耐熱性、防音性能、調湿性、熱伝導率、価格などが異なるため、それぞれを比較しながら施工業者と相談して住宅に適切なものを選ぶことが大切です。
まとめ

グラスウールは人体に優しく耐久性の高い、高性能な断熱材料です。アスベストと混同されることがありますが、まったく異なるものであり、安心して使用できます。
ただし、施工方法を間違えると建物内に湿度が入り込んだ際に施工不良などの問題を引き起こす可能性があるため、施工業者選びをしっかり行い、信頼のおける業者に施工してもらうことが大切です。


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