この記事はこだたま行政書士事務所による文責によるものです。
飲食店の開業にはそこそこ大きい額の資金が必要です。
テナントを借りる際に、いい具合に居抜き物件を見つけたとしても最低限の手直しは必要となりますし、それだけならまだしも、やっていくうちに「あっちも直したい、こっちも直したい」という願望が出てきて内装費用だけでもかさんでいきます。
これは、そう何度も経験することがない「自分の店のオープン」であるため仕方のないことで、逆にここを妥協して、またはここで必要な資金が捻出できず理想の店を断念するということはあまり望ましいものではありません。
では、開業資金はみなさんどこから調達しているのでしょうか。
ごくまれに、開業資金のほぼ全てをご自身で用意され、わずかな一部を親族等から借り入れるという方もいらっしゃいますが、ほとんどの方は融資を検討されます。
目次
金融機関は創業者に融資するのか
ここでひとつ疑問があります。
果たして、金融機関(銀行や信用金庫)はまだ創業前で実績もない人にお金なんて貸してくれるのでしょうか。
決算書もない、実際の売り上げもない。
こんな状態で貸してくれるところなんてあるのでしょうか。
答えは「あります」。
もし創業者にどこも貸してくれるところがないとすると、もともと資金がある方や、環境に恵まれた方しか創業できないことになってしまい、その他の方が持っていた素晴らしいアイデアが日の目を見ることなく埋もれていくことになってしまいます。
日本は、そんなにひどい国ではありません。
きちんと用意されています。
創業前の、夢がある方に融資する制度が。
それが創業融資です。
昨今、最も利用されている創業融資は、日本政策金融公庫の「新創業融資」と信用保証協会の保証の下で金融機関が融資する「制度融資」の2つです。
※制度融資は、一部自治体の支援を受けられることもあります。
創業融資の二大ポイント その1自己資金
公庫の新創業融資も、保証協会の制度融資も、その融資を獲得するにあたって共通するポイントがあります。
こまごましたものもたくさんありますが、二大ポイントと言ってよいくらい、外せないところがあります。
そのひとつが、自己資金です。
自己資金とは、そのままご自身の資金ということで、どこにも返済する必要がないお金を言います。
創業融資では、「これだけの自己資金が最低ないと融資の申し込みができないよ」と定められていることがほとんどです。
これを自己資金要件と呼びますが、制度融資の場合は特に設けられておらず、公庫の新創業では10分の1とされています。
自己資金要件10分の1という意味は、開業資金全体の10分の1は自己資金で占められていないといけない、つまり開業資金全体で1,000万円を見込む方は、その10分の1である100万円は最低でも自己資金でまかない、残り900万円が融資の対象になるということです。
但し、現実的には100万円の自己資金の方が900万円の融資を引っ張るということは至難の業です。
安全ラインで自己資金額の2倍から3倍程度、額にして200~300万円の融資ではないでしょうか。
形上、要件をクリアしているため受付はされるかもしれませんが、実際融資が実行されるかどうかは別問題です。
これは制度融資も同じで、いくら要件として自己資金の有無が問われていないとされていても、実際の融資実行額にはかなり影響するとみて間違いありません。
なぜそこまで自己資金が重視されるのか
自己資金が重視される理由として考えられるのは、もちろん、自己資金が大きい方が安定して経営ができるだろうと推測されることもあります。
融資で調達した資金は、いずれ返済しなければなりません。
常に、返済に足りる余剰を出しておかなければならないのです。
一方、自己資金は返済する必要がないため、万が一売り上げが芳しくなくともそれ以上の圧迫はありません。
しかし、創業融資の審査において自己資金が重視されるもっと大きな理由があると思っています。
それは、創業者の過去から現在までにかけての創業に対する真摯さ、覚悟、想いを自己資金の額である程度見て取ることができるからです。
お金を貸す側の立場に立って考えてみましょう。
これまでカフェを開くのが夢だったとして融資を申し込んできた方の自己資金がゼロだったらどう思いますか。
何でまったくお金貯めてこなかったのよと思うでしょう。
もっと言えば、「カフェ開業の夢なんてその程度か。本気で開業する気があるの?」ということです。
本当に夢見ていた、目標にしていたのであれば、何かを削ってでも開業資金として貯めていく、この覚悟を融資する側は見ているのです。
創業融資は通常の事業資金融資と違い、経営者の過去の実績を見ながら融資可否を検討していくことはできません。
しかし、過去から現在にわたって真面目に開業のことを考えてきた創業者かどうかはしっかり見られます。
これらの理由から、自己資金の額は相当大きなポイントとなります。
創業融資の二大ポイント その2創業計画書
もう一つの大きなポイントは、「今後どのような商売を始め、展開していくのか」という計画の内容です。
設備に関する内容は妥当か、どのような立地で、どのような顧客をターゲットにしていくのか、よって見込まれる売り上げはいくらか、経費はいくらか、同業者との差別化はどのようなものがあるか、などなど、業種によって細かい部分は書き方は異なりますが、大枠は同じです。
これらの計画を集約する「創業計画書」は提出する書類の中でも最重要書類です。
この創業計画書の内容、出来次第で融資の可否が決まるといっても全くもって過言ではありません。
じゃあこの創業計画書にあることないこと、「この事業はすごく儲かります」という意味のことを書き連ねればいいのかというと、もちろんそうではありません。
創業計画書の作成は非常に緻密
日本政策金融公庫の融資担当者も、信用保証協会の担当者もこれまでいろんな業種の多くの創業に携わってきているはずです。
創業計画書内でも重要な「収支計画書」において適当に数字を入れて持っていくと瞬殺されます。
「数字が甘過ぎますね。」と。
収支計画一つ立てるにも、
顧客ターゲットがこの層で、
この辺はそういう人がこれくらい住んでいたり、行き来したりしていますから、
これくらいの来客が見込めて、
一人につきだいたいこれくらいのお金を落としていってくれると思われるので、
売り上げはこのくらいが見込まれる
というくらいまでは掘り下げて根拠づけなければなりません。
もちろん、実際どれくらいの来客数があり、どれくらいの客単価になるかなんてオープンしてみないと分かりませんが、それを最大限調査して予測していく必要があります。
その上で、考えられる支出(経費)をあぶりだしていき、水道光熱費などの変動費は同じような商売をやっている人にヒアリングして、そこに店舗規模などの要素を加味しておおよその金額を出してみる、という雑多な作業も多く発生します。
そして、それで収支が赤字になるなどする場合、売り上げを増やす方向で計画を練り直すか、支出を抑える方向にもっていくのか、それを検討していきます。
場合によっては、商品の価格を上げてみたり、人件費を下げてみたりなどして調整していく他、サービスや商品の内容自体を大幅に変更することを迫られることもあります。
そうやって、緻密に創業計画を練っていきます。
創業計画書で最も見られるところ
これはズバリと言ってもいいくらい、決まりきっています。
それは、
- 融資資金は適切な使い方をされるのかどうか
- 融資したお金は利子、元金ともに無事に回収できる見込みかどうか
この2点です。
何も融資する側はあなたの商売が面白いかどうかを見ているわけではありません。
もちろん融資担当者も人間ですから個人的にはいろいろ私見もあるかもしれませんが、担当者の立場としては上記の2点に着目してきます。
融資資金の使い道が適正かどうか
これは、金融機関としては至極当然に思うことです。
もし、「テナントを借りるために300万円貸したら、実はテナント取得費は200万円で、残りの100万円を他の用途に使われた」ということがあると金融機関としてはタダで済ますわけにはいかなくなります。
なので、設備資金に関して融資を希望する場合、適正な見積書を事前に用意して創業計画書に添付することを強く求められます。
見積もりも1社だけだとその会社と結託している恐れもあるので、高額になればなるほど、2社以上の見積書を求められることが多くなります。
また、見積書という形で提示できない「運転資金」はあまり長期間分希望すると削られることが多くなります。
運転資金もせいぜい1~3ヶ月が限界ではないでしょうか。
(少なくとも、飲食店の場合現金売り上げがほとんどなので、掛け商売ほど運転資金は必要ではないはずです。もし半年分必要だと思うのであれば、開業することについてもう一度じっくり考えてみることをお勧めします。)
融資したお金は利子付きで元金回収できるかどうか
金融機関としての本音は、ここに尽きるでしょう。
申し込み時と異なる使途に資金が流れたとしても、最悪全額回収できれば金融機関としては痛くはありません。(あまり頻発するといろいろな検査などで引っかかるでしょうが)
金融機関として最も困る、または面倒なのが、返済途中で回収不能に陥ることです。
返済期間延長などで対応できればまだしも、不能状態になってしまうと担当者としても面倒な処理が必要になります。
従って、創業融資における創業計画書で大事なのは「すごく儲かる」ことをアピールすることではなく、「利子を払いながら、元金もきちんと返済していける」ことを打ち出すことです。
たまに「もっと月々の余剰が多い収支計画の方が、見栄えが良いのではないか」とご心配される方もいらっしゃいますが、金融機関としては最後に残る純利益が月に10万円でも100万円でも、さほど興味はありません。
自分たちの貸したお金の返済については問題ないと確認できれば良いわけです。
むしろ、見栄えにこだわるあまり売上の額を説明できる根拠以上に大きくしても「本当にその売上が立つ見込みがあるのか、これは全体的に怪しい」という印象を植えつけるだけですし、経費の部分をあまりに削っても「これでは長続きしないだろうな」と思われてしまいます。
例えば
- 毎月返済も入れると残る純利益が数万円
- 売り上げが時期的に落ち込む月には単月赤字数千円
という収支計画書であったとしても、満額融資は可能です。
きちんと根拠がある創業計画で返済も問題なければ、それで基本的には公庫も保証協会も前向きに姿勢を向けてくれると思います。
創業融資を獲得するために力を借りたい方へ
創業融資は創業者にとって強い味方ですが、全体としてきちんと創業融資が受けられた方は申し込みのうち30%程度だと言われています。
これはなぜかというと、ズバリ、準備不足です。
もしくは、内容が薄かったということです。
特に、公庫も保証協会もそれぞれホームページに創業計画書の雛形と記入例まで用意してくれていますが、あの通りやると基本的にはアウトです。
あれは、罠なのです。笑
いずれも、あの雛形をベースにしつつも、もっと充実した内容にしていく必要があります。
そこで、弊社ではテナントの選定や内装工事をご相談いただいた場合に限り、こだたま行政書士事務所と提携して創業融資の獲得に向けたコンサルティングも行っております。
創業計画書の元になる情報の収集に留まらず、これまでの経験に基づいてトータルでコンサルティングしてまいります。
何としても創業融資を獲得したいあなた!
でも自分ひとりでやるとなる不安で血の気が引きそうになるというあなた!
遠慮せずご相談ください。
文責:こだたま行政書士事務所 行政書士 林洋平